くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
やわらかな陽射しが降り注ぐ午後。
魔力により四季折々の花が咲く庭園では、ガーデンテーブルにティーセットを広げて魔王とアネイル国の王女は談笑をしていた。
否、談笑しているのは王女のみで、魔王は無表情を崩さずに彼女の話に相槌を打つ。
無表情を貼り付けた魔王の顔の裏には苛立ちが見え隠れしており、遠巻きに様子を伺っていた兵達はいつ魔王が力を解放するか内心冷や汗を流していた。
人族の支配する大国アネイルの第二王女、サーシャリア姫は大使としての用は済んだというのに、未だ自国へ戻らずに居座っているのは思惑あっての事だ。
なるべく穏便に、適当に言いくるめて帰そうと王女一向の相手をしていた宰相のキルビスは、王女に嫌気がさして彼女を殺そうと暗躍しかけたため仕方無しに魔王が相手をする羽目となった。
「魔王様」
魔王を上目遣いに見詰めている王女の瞳は潤み、色香を含んだ魔力の光を放つ。
魔王は口の端を僅かに上げた。
魅了の魔法。
人の身にしては強い魅了魔法の使い手だと、王女の力はすでに見抜いていた。
人族か力の弱い魔族だったら、王女の瞳に囚われただろう。
一国の王女が魅縛の力を持つ魔王に魅了魔法を使おうなど、全くもって愚かとしか思えない。
魅了魔法の効果を得られないという事に、王女は頬に指を当てて微笑むと小首を傾げる。
その仕草に魔王は眉を顰めた。
自分をどう見せれば可愛らしく見えるのかを知っている、狡猾な女。
『友達と温泉旅行に行くから部屋に居ません。だから喚ばないでね』
満面の笑みで言った女は、狡猾な女とは違い魔王に媚びる事はしない。
『お土産を買ってきますね』
不細工な抱き枕とやらを持ち込んだ女の事だ、土産など録でもない物を持ってくるに決まっている。
だが魔王にとってその女が、理子の裏表が無い笑顔がたまらなく愛おしいと、今なら思えた。
「魔王様? 魔王様、どうなさったの?」
意識が逸れていた魔王が顔を動かし、上目遣いで見上げてくる水色の瞳と視線が合う。
魔王と視線が合い、途端に王女は頬を赤らめた。
「わたくし、魔国へ来て魔王様にお会い出来て本当に良かったと思っていますの。魔王様ほど美しい方にお会いしたことはありませんもの」
水色の瞳が更に煌めいた。
魅了魔法が効かない魔王に対し、王女は瞳に魔力を強めてじっと見詰める。
「サーシャリア姫には優秀な婚約者殿がいると聞いていたが?」
魔法の効果を高めるようとしているのかしつこく見詰めてくる王女は、魔王の視線と声色に含まれる冷ややかさには気付かない。
「婚約者など、父上が決めた者。わたくしが父上にお願いすれば、直ぐに婚約は解消できますわ」
くすくす、笑う声は聞く者によって、鈴を転がした様な、と評されるだろうが魔王にとっては不快にしか感じない。
「ましてや、わたくしが魔王様の妃となるのでしたら、父上もお喜びになるでしょう」
妃になると言いきった王女に、魔王の苛立ちは一瞬で霧散し、怒りは無となる。
すぅーと、魔王は目を細めた。
「妃だと?」
「はい」
自分が我の隣に据われるのだと自信に満ちた声に、笑いが汲み上げてきた。
「くくくっ……愚かな女だ」
込み上げてくる嘲笑を抑えずに、魔王は両肩を震わす。
「貴様を妃に据えるだと? 厚顔無恥とは正しく貴様のような女の事だな」
この女が王女じゃなければ、直ぐに引き裂いていただろう。
今まで魔王にすがり付いて寵を乞う女はいたが、こうもあからさまに妃の座をねだり、妃となるのが当然と宣う女が存在するとは。
「ま、魔王様?」
明るかった空に暗雲が立ち込め、庭園が陰っていく。
冷笑を浮かべて嗤う魔王に王女は狼狽える。だが、もう遅い。
「サーシャリア姫、従者達と共に祖国へ戻るがいい。戻って王に伝えろ、貴様の娘程度の女に、我を籠絡させようなどと二度と思わぬ事だな、と」
これ以上の魔王、魔国への不敬は滅亡につながる、と暗に含む。
呪文詠唱も印も無しに、魔王は王女の足元へ転移魔方陣を展開させる。
異変に気付いた王女は、音をたてて椅子から立ち上がった。
「えっ……? な、何をなさるの!?」
「貴様には不快な感情しか抱けぬ。魔王に対して魅了魔法など使うとはな」
王女の足元の魔方陣から漆黒の鎖が伸び、上半身へ絡み付いていく。
「きゃあぁ⁉」
王女の上半身に絡み付いた漆黒の鎖は皮膚へ浸透するように消え、王女の魔力、魅了の力を封じていく。
「貴様など、魔力も秀麗さも、我の寵姫には遠く及ばぬ」
魔王が嘲りそう告げれば、転移魔方陣によって強制転移されて行く王女の水色の瞳が驚愕に見開かれた。
魔力により四季折々の花が咲く庭園では、ガーデンテーブルにティーセットを広げて魔王とアネイル国の王女は談笑をしていた。
否、談笑しているのは王女のみで、魔王は無表情を崩さずに彼女の話に相槌を打つ。
無表情を貼り付けた魔王の顔の裏には苛立ちが見え隠れしており、遠巻きに様子を伺っていた兵達はいつ魔王が力を解放するか内心冷や汗を流していた。
人族の支配する大国アネイルの第二王女、サーシャリア姫は大使としての用は済んだというのに、未だ自国へ戻らずに居座っているのは思惑あっての事だ。
なるべく穏便に、適当に言いくるめて帰そうと王女一向の相手をしていた宰相のキルビスは、王女に嫌気がさして彼女を殺そうと暗躍しかけたため仕方無しに魔王が相手をする羽目となった。
「魔王様」
魔王を上目遣いに見詰めている王女の瞳は潤み、色香を含んだ魔力の光を放つ。
魔王は口の端を僅かに上げた。
魅了の魔法。
人の身にしては強い魅了魔法の使い手だと、王女の力はすでに見抜いていた。
人族か力の弱い魔族だったら、王女の瞳に囚われただろう。
一国の王女が魅縛の力を持つ魔王に魅了魔法を使おうなど、全くもって愚かとしか思えない。
魅了魔法の効果を得られないという事に、王女は頬に指を当てて微笑むと小首を傾げる。
その仕草に魔王は眉を顰めた。
自分をどう見せれば可愛らしく見えるのかを知っている、狡猾な女。
『友達と温泉旅行に行くから部屋に居ません。だから喚ばないでね』
満面の笑みで言った女は、狡猾な女とは違い魔王に媚びる事はしない。
『お土産を買ってきますね』
不細工な抱き枕とやらを持ち込んだ女の事だ、土産など録でもない物を持ってくるに決まっている。
だが魔王にとってその女が、理子の裏表が無い笑顔がたまらなく愛おしいと、今なら思えた。
「魔王様? 魔王様、どうなさったの?」
意識が逸れていた魔王が顔を動かし、上目遣いで見上げてくる水色の瞳と視線が合う。
魔王と視線が合い、途端に王女は頬を赤らめた。
「わたくし、魔国へ来て魔王様にお会い出来て本当に良かったと思っていますの。魔王様ほど美しい方にお会いしたことはありませんもの」
水色の瞳が更に煌めいた。
魅了魔法が効かない魔王に対し、王女は瞳に魔力を強めてじっと見詰める。
「サーシャリア姫には優秀な婚約者殿がいると聞いていたが?」
魔法の効果を高めるようとしているのかしつこく見詰めてくる王女は、魔王の視線と声色に含まれる冷ややかさには気付かない。
「婚約者など、父上が決めた者。わたくしが父上にお願いすれば、直ぐに婚約は解消できますわ」
くすくす、笑う声は聞く者によって、鈴を転がした様な、と評されるだろうが魔王にとっては不快にしか感じない。
「ましてや、わたくしが魔王様の妃となるのでしたら、父上もお喜びになるでしょう」
妃になると言いきった王女に、魔王の苛立ちは一瞬で霧散し、怒りは無となる。
すぅーと、魔王は目を細めた。
「妃だと?」
「はい」
自分が我の隣に据われるのだと自信に満ちた声に、笑いが汲み上げてきた。
「くくくっ……愚かな女だ」
込み上げてくる嘲笑を抑えずに、魔王は両肩を震わす。
「貴様を妃に据えるだと? 厚顔無恥とは正しく貴様のような女の事だな」
この女が王女じゃなければ、直ぐに引き裂いていただろう。
今まで魔王にすがり付いて寵を乞う女はいたが、こうもあからさまに妃の座をねだり、妃となるのが当然と宣う女が存在するとは。
「ま、魔王様?」
明るかった空に暗雲が立ち込め、庭園が陰っていく。
冷笑を浮かべて嗤う魔王に王女は狼狽える。だが、もう遅い。
「サーシャリア姫、従者達と共に祖国へ戻るがいい。戻って王に伝えろ、貴様の娘程度の女に、我を籠絡させようなどと二度と思わぬ事だな、と」
これ以上の魔王、魔国への不敬は滅亡につながる、と暗に含む。
呪文詠唱も印も無しに、魔王は王女の足元へ転移魔方陣を展開させる。
異変に気付いた王女は、音をたてて椅子から立ち上がった。
「えっ……? な、何をなさるの!?」
「貴様には不快な感情しか抱けぬ。魔王に対して魅了魔法など使うとはな」
王女の足元の魔方陣から漆黒の鎖が伸び、上半身へ絡み付いていく。
「きゃあぁ⁉」
王女の上半身に絡み付いた漆黒の鎖は皮膚へ浸透するように消え、王女の魔力、魅了の力を封じていく。
「貴様など、魔力も秀麗さも、我の寵姫には遠く及ばぬ」
魔王が嘲りそう告げれば、転移魔方陣によって強制転移されて行く王女の水色の瞳が驚愕に見開かれた。