くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
寝間着から用意されたドレスへ着替えた理子を見て、シルヴァリスは満足気に目を細めた。
「見違えたな」
「馬子にも衣装、ですよ」
黒い詰襟のかっちりとした服に着替え、今日は髪を後ろへ撫で付けた麗しいシルヴァリスの赤い双眸に見詰められるのに耐えきれず、理子は横を向く。
メイド改めて侍女二人から聞いた話によれば、理子の着ているベビーピンク地に裾と胸元に濃いマゼンタ色の刺繍がされた、シンプルで可愛いドレスはシルヴァリス自ら手配したらしい。
ドレスを着せてもらった時は、単純に嬉しくて鏡に映る自分の姿に気分は高揚した。
しかし、用意された部屋のクローゼットに納められていた十着以上のドレスが、シルヴァリスが理子のために用意したものだと聞かされた時は目眩がして手で顔を覆った。
髪を結い上げるのと化粧は軽めにしてもらえたが、初めて着けたコルセットは苦しいし、七五三以来の本格的なドレスに気を使いまくって、まだ朝だというのに疲れて休憩したくなっても仕方ないでしょう。
給仕係やメイド達に見守られて食べる朝食は、コルセットに締め付けられた胃は直ぐに苦しくなって、あまり食べられない。
せっかく美味しいクロワッサンなのに、と理子は心の中で涙を流した。
可能ならば、クロワッサンは向こうへお持ち帰りさせてもらおうと、心に決めた。
***
朝食後、執務へ向かうシルヴァリスを見送った理子は、エルザとルーアンに日当たりの良い一室へと案内された。
室内には重厚な机と椅子が設置されており、エルザに促されて理子は椅子に座わる。
椅子へ座ってすぐに、ノック音と共に室内へ入って来たのはマクリーン侍女長。
彼女は「おはようございます」と完璧な淑女の礼をとると、両脇に抱えていた本を机の上へ置いた。
ドサドサッ!
目の前に積み上げられた本に、理子の目は点になった。
「えーっと、これは何ですか?」
「リコ様にはこの国の、いえ、この世界の理を学んでいただきます。貴女様は、魔王様の正妃候補なのですから」
否とは言わせないと含んだ、迫力あるマクリーンの形相に、理子は反射的に上半身を仰け反らせる。
(え? 魔王の正妃候補とは、どういうことだ?)
「正妃候補!?」
この世界には観光目的に来たはず。
なのに何故、魔王のお妃候補とされて学ばなければならないのだ。
助けを求めてエルザとルーアンを探すが、二人はマクリーンの指示を受けて部屋から既に下がっていた。
「異世界に住まわれているリコ様はこの世界、魔国の事を知らなすぎて危険だという魔王様のご意向もありまして、今日から城に滞在される間はこの世界の理、そして王妃として必要とされる知識を基礎から学んでいただきます。次回滞在される時には、私が淑女としての礼儀作法をお教えしますわ」
息継ぎ無く一気に言い切ったマクリーンに、理子は心の中で「すごい、侍女長!」と拍手を贈った。
話の流れから、お妃教育とやらはシルヴァリスの意向も入っているのだろう。
完全に休暇モードでこの世界へ来たのに、これでは全く癒されないどころかストレスフルになるじゃないか。
本人の意思を無視して妃候補にされるとか、休暇なのに勉強をするなんて嫌すぎる。
「あの、観光は……」
絞り出すように聞いてみれば、マクリーンはフッと鼻で笑う。
「勉学の後、時間があれば、でございますよ。では、始めましょう」
にっこりと美しく笑うマクリーンの目元は全く笑っていない。
逆らえない圧力を放つマクリーンに、理子は畏怖を込めて某アニメキャラと“スーパー家庭教師”の称号を与えることにした。
「見違えたな」
「馬子にも衣装、ですよ」
黒い詰襟のかっちりとした服に着替え、今日は髪を後ろへ撫で付けた麗しいシルヴァリスの赤い双眸に見詰められるのに耐えきれず、理子は横を向く。
メイド改めて侍女二人から聞いた話によれば、理子の着ているベビーピンク地に裾と胸元に濃いマゼンタ色の刺繍がされた、シンプルで可愛いドレスはシルヴァリス自ら手配したらしい。
ドレスを着せてもらった時は、単純に嬉しくて鏡に映る自分の姿に気分は高揚した。
しかし、用意された部屋のクローゼットに納められていた十着以上のドレスが、シルヴァリスが理子のために用意したものだと聞かされた時は目眩がして手で顔を覆った。
髪を結い上げるのと化粧は軽めにしてもらえたが、初めて着けたコルセットは苦しいし、七五三以来の本格的なドレスに気を使いまくって、まだ朝だというのに疲れて休憩したくなっても仕方ないでしょう。
給仕係やメイド達に見守られて食べる朝食は、コルセットに締め付けられた胃は直ぐに苦しくなって、あまり食べられない。
せっかく美味しいクロワッサンなのに、と理子は心の中で涙を流した。
可能ならば、クロワッサンは向こうへお持ち帰りさせてもらおうと、心に決めた。
***
朝食後、執務へ向かうシルヴァリスを見送った理子は、エルザとルーアンに日当たりの良い一室へと案内された。
室内には重厚な机と椅子が設置されており、エルザに促されて理子は椅子に座わる。
椅子へ座ってすぐに、ノック音と共に室内へ入って来たのはマクリーン侍女長。
彼女は「おはようございます」と完璧な淑女の礼をとると、両脇に抱えていた本を机の上へ置いた。
ドサドサッ!
目の前に積み上げられた本に、理子の目は点になった。
「えーっと、これは何ですか?」
「リコ様にはこの国の、いえ、この世界の理を学んでいただきます。貴女様は、魔王様の正妃候補なのですから」
否とは言わせないと含んだ、迫力あるマクリーンの形相に、理子は反射的に上半身を仰け反らせる。
(え? 魔王の正妃候補とは、どういうことだ?)
「正妃候補!?」
この世界には観光目的に来たはず。
なのに何故、魔王のお妃候補とされて学ばなければならないのだ。
助けを求めてエルザとルーアンを探すが、二人はマクリーンの指示を受けて部屋から既に下がっていた。
「異世界に住まわれているリコ様はこの世界、魔国の事を知らなすぎて危険だという魔王様のご意向もありまして、今日から城に滞在される間はこの世界の理、そして王妃として必要とされる知識を基礎から学んでいただきます。次回滞在される時には、私が淑女としての礼儀作法をお教えしますわ」
息継ぎ無く一気に言い切ったマクリーンに、理子は心の中で「すごい、侍女長!」と拍手を贈った。
話の流れから、お妃教育とやらはシルヴァリスの意向も入っているのだろう。
完全に休暇モードでこの世界へ来たのに、これでは全く癒されないどころかストレスフルになるじゃないか。
本人の意思を無視して妃候補にされるとか、休暇なのに勉強をするなんて嫌すぎる。
「あの、観光は……」
絞り出すように聞いてみれば、マクリーンはフッと鼻で笑う。
「勉学の後、時間があれば、でございますよ。では、始めましょう」
にっこりと美しく笑うマクリーンの目元は全く笑っていない。
逆らえない圧力を放つマクリーンに、理子は畏怖を込めて某アニメキャラと“スーパー家庭教師”の称号を与えることにした。