くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
城内が何時もより活気付いている気がする。
二日ほど前から、魔王の機嫌が良いと気味悪がっていたキルビスは、部下の報告から機嫌が良い理由が分かり鼻で嗤った。
自分に何も情報を寄越さなかったとは、余程お気に入りの娘と接触させたくないらしい。
主の機嫌で振り回されている城仕えの者達が今日は平和に仕事をしているのを横目に、キルビスは魔王の執務室へ向かっていた。
「失礼します」
入室の許可を得ると同時に執務室へ入れば、魔王は何時もより仕事が捗っている様子で腹が立つ。
「魔王様、あれは酷いんじゃないですか?」
「何がだ?」
開口一番にキルビスから非難され、魔王のペンを持つ手が止まる。
「本人の了承無くお妃教育とは、騙し討ちみたいだって僕だって思いますけどね」
キルビスが言っているのは誰のことか分かり、魔王はサインを書き終えた書類を置いて顔を上げた。
「だから何だと言うのだ」
隠していた情報を掴んでやったのに、特に驚きもしない魔王に苛立ちが募ったキルビスはがしがしと頭を掻く。
「侍女長が張り切っていて喧しいからな。滞在ついでにやらせるだけだ。我の執務が終われば外には連れていってやる」
「何が、ついでですか。ただ可愛いお嬢さんを外へ出したくないだけなくせに。後でお嬢さんには「外に出すのが心配なんだ」と正直に話さないと嫌われますよ。嫌われて逃げられたら、僕があの娘を貰ってあげますけど?」
ひゅっ!
嫌われてしまえ、と呪詛を込めて言ったキルビスの右頬が鼻の手前までザックリ裂けた。
赤い瞳が鋭利な刃のように細められた魔王の髪が、風も無いのにザワザワと揺れる。
魔王の放つ魔力に執務室が揺れて、やり取りを見守っていた文官からは「ひいっ」と短い悲鳴が上がった。
「キルビス、貴様……死にたいか」
「僕が死んだら、困るのは魔王様でしょ?」
体を突き刺す魔王からの圧力を、キルビスは涼しい顔で受け流した。
憎まれ口を叩く宰相を前に、魔王が不敵に笑う。
お互い冗談半分なのは分かっている。魔王が本気で来たら、執務室ごと吹き飛んでいるからだ。
暫く睨み合った後、ようやく魔王が魔力を抑えた時には、安堵のあまり側仕えの文官は崩れ落ちかけた。
「そうそう、魔王様が寵姫を連れ込んだとの噂を聞き付けて、貴方の婚約者候補だった娘が登城したらしいですよ」
口元に指を当てて暫し思案した魔王は、魔貴族の中でも魔力の高い娘を思い出した。
「ロゼンゼッタ家の娘か」
数年前、強い魔力を持つ一人娘を是非とも妃候補にと、ロゼンゼッタ当主が煩かったのを一笑にふしたのだった。
その娘が婚約者候補扱いとされていたのは、当の魔王は興味も無く知らなかったが。
「どうします?」
「放っておけ。どうせ貴様の差し金だろう」
つまらなそうに、魔王は椅子の肘掛けに頬杖を突いたまま答える。
「よくご存知で。ロゼンゼッタ家の娘を懐柔出来れば、お嬢さんも今後楽でしょうね」
キルビスはニヤリと口角を上げて笑う。
魔貴族の中でも力のある一族の時期当主と魔王の寵愛を受ける娘を絡ませたら面白いし、上手く関係を築けたら娘が魔国で生きやすくなる。
魔王が何も言わないのは、この男もキルビスの思惑に気付いており、その他のことも企んでいるからだろう。
二日ほど前から、魔王の機嫌が良いと気味悪がっていたキルビスは、部下の報告から機嫌が良い理由が分かり鼻で嗤った。
自分に何も情報を寄越さなかったとは、余程お気に入りの娘と接触させたくないらしい。
主の機嫌で振り回されている城仕えの者達が今日は平和に仕事をしているのを横目に、キルビスは魔王の執務室へ向かっていた。
「失礼します」
入室の許可を得ると同時に執務室へ入れば、魔王は何時もより仕事が捗っている様子で腹が立つ。
「魔王様、あれは酷いんじゃないですか?」
「何がだ?」
開口一番にキルビスから非難され、魔王のペンを持つ手が止まる。
「本人の了承無くお妃教育とは、騙し討ちみたいだって僕だって思いますけどね」
キルビスが言っているのは誰のことか分かり、魔王はサインを書き終えた書類を置いて顔を上げた。
「だから何だと言うのだ」
隠していた情報を掴んでやったのに、特に驚きもしない魔王に苛立ちが募ったキルビスはがしがしと頭を掻く。
「侍女長が張り切っていて喧しいからな。滞在ついでにやらせるだけだ。我の執務が終われば外には連れていってやる」
「何が、ついでですか。ただ可愛いお嬢さんを外へ出したくないだけなくせに。後でお嬢さんには「外に出すのが心配なんだ」と正直に話さないと嫌われますよ。嫌われて逃げられたら、僕があの娘を貰ってあげますけど?」
ひゅっ!
嫌われてしまえ、と呪詛を込めて言ったキルビスの右頬が鼻の手前までザックリ裂けた。
赤い瞳が鋭利な刃のように細められた魔王の髪が、風も無いのにザワザワと揺れる。
魔王の放つ魔力に執務室が揺れて、やり取りを見守っていた文官からは「ひいっ」と短い悲鳴が上がった。
「キルビス、貴様……死にたいか」
「僕が死んだら、困るのは魔王様でしょ?」
体を突き刺す魔王からの圧力を、キルビスは涼しい顔で受け流した。
憎まれ口を叩く宰相を前に、魔王が不敵に笑う。
お互い冗談半分なのは分かっている。魔王が本気で来たら、執務室ごと吹き飛んでいるからだ。
暫く睨み合った後、ようやく魔王が魔力を抑えた時には、安堵のあまり側仕えの文官は崩れ落ちかけた。
「そうそう、魔王様が寵姫を連れ込んだとの噂を聞き付けて、貴方の婚約者候補だった娘が登城したらしいですよ」
口元に指を当てて暫し思案した魔王は、魔貴族の中でも魔力の高い娘を思い出した。
「ロゼンゼッタ家の娘か」
数年前、強い魔力を持つ一人娘を是非とも妃候補にと、ロゼンゼッタ当主が煩かったのを一笑にふしたのだった。
その娘が婚約者候補扱いとされていたのは、当の魔王は興味も無く知らなかったが。
「どうします?」
「放っておけ。どうせ貴様の差し金だろう」
つまらなそうに、魔王は椅子の肘掛けに頬杖を突いたまま答える。
「よくご存知で。ロゼンゼッタ家の娘を懐柔出来れば、お嬢さんも今後楽でしょうね」
キルビスはニヤリと口角を上げて笑う。
魔貴族の中でも力のある一族の時期当主と魔王の寵愛を受ける娘を絡ませたら面白いし、上手く関係を築けたら娘が魔国で生きやすくなる。
魔王が何も言わないのは、この男もキルビスの思惑に気付いており、その他のことも企んでいるからだろう。