くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
金髪縦ロール嬢こと、ベアトリクス・ロゼンゼッタ侯爵令嬢は理子とのお喋りをいたく御気に召したようで、「明日、また伺いますわ」と艶やかに微笑んで帰路へとついた。
麗しい令嬢とのお喋りは楽しいものだったが、お盆休みをのんびり過ごしたいと思い此処へ来たのにと、許容オーバーになった頭を抱えた理子は大きな溜め息を吐いてしまった。
夕食の時間となり、案内された部屋には魔王シルヴァリスの姿は無く、理子は室内を見渡す。
白いテーブルクロスが掛けられたテーブルには、一人分のカトラリーしかセットされていない。
「エルザ、魔王様はいらっしゃらないの?」
「火急の案件のため、来られないそうです」
「そう……」
シルヴァリスとは朝以来、顔を合わせていなかった。
魔王と言えども、ファンタジーの世界で勇者を待って玉座でふんぞり返っているのはゲームや漫画の魔王だけで、シルヴァリスは王様としての執務が忙しいのだという。
会えなくて寂しいということではなく、侍女や給仕係に見られて食べる食事は緊張する上に、誰かと会話が出来ない無いのが寂しい。
行儀が悪いと言われようがお上品なディナーより、楽しく話せる職場の社員食堂や行きつけの居酒屋の方が気が楽だ。
夕食を終え入浴を済ませた理子は、エルザとルーアンに全身マッサージを施されて全身ツルピカになった。
全身マッサージの気持ちよさから、彼方の世界へ戻ったら自分へのご褒美に月一くらいでエステへ通おう。
(シルヴァリス様は戻ってこないなら、自分で拭いてもいいかな)
半乾きの髪の毛が気になってタオルで拭いてしまおうかと、理子は銀細工で装飾された鏡台の前へ向かった。
「魔王様がいらっしゃいます」
タイミングよくかけられたエルザの声に、タオルを持つ手が止まる。
魔王の寝室へと続く扉が開き、濃紺色のシャツの上に黒色のガウンを羽織ったシルヴァリスが室内へ足へ踏み入れた。
壁際に下がったエルザとルーアンは、一礼をして部屋を後にした。
既に入浴は済ませたらしく、シルヴァリスからは仄かに花の香りがする。
「遅くなった」
慣れない場所で一人は大変だったとか、一人で夕飯は寂しかったのに、と言うのは恥ずかしくて理子はぐっと言葉を飲み込む。
「シルヴァリス様、お仕事お疲れ様です」
赤い目を細めてシルヴァリスは私を見下ろし、右手を差し出した。
「リコ」
名を呼ばれた理子は、いつも通りシルヴァリスの前へと歩み寄る。
ふわり
あたたかな風が吹いて、半乾きの髪がふんわりと乾く。
髪から仄かに香るのは、甘く陶酔させるような、エキゾチックでフローラルな香り。
この香りは彼の気分次第だと気付いたのは、いつの頃だろうか。
甘い香りに、私の心がゆらゆら揺れる。
乾いた髪に手を伸ばしたシルヴァリスは、サラサラと艶さらになった髪の感触を楽しむように指先で髪を弄ぶ。
『魔王様のご世継ぎを...』
甘い香りに酔ってしまい、うっとりと目蓋を閉じて与えられる指先の動きを感じていた私は、ふと、ベアトリクスの発言を思い出して我に返った。
危ない。
このまま、シルヴァリスとの間に漂う甘ったるい雰囲気に流されてしまったら、そういう事態、後戻り出来ない非常に不味い事態になる予感がする。
「どうした?」
シルヴァリスの顔を見ているのが恥ずかしくて、理子は横を向いた。
髪を弄んでいたシルヴァリスの長い指が理子の頬を撫でていく。
「っ、くすぐったいだけです」
真っ赤に染まった顔を見られたくなくて、理子はさらに顔を背けた。
クツリと喉を鳴らす音と共に、頬から指が離れる。
「まぁいい。行くか」
ぱさりっ、
シルヴァリスは理子の肩へ、どこからか用意したらしい藍色のショールを掛ける。
「行くって何処に?」
カシミヤ素材に似た暖かなショールを掻き抱く理子の問いには答えず、シルヴァリスは彼女の腰を右手で抱え込んで歩き出した。
「ちょっと、シルヴァリス様!?」
理子の声を無視したまま、シルヴァリスはテラスへ続く窓を乱暴に開け放った。
麗しい令嬢とのお喋りは楽しいものだったが、お盆休みをのんびり過ごしたいと思い此処へ来たのにと、許容オーバーになった頭を抱えた理子は大きな溜め息を吐いてしまった。
夕食の時間となり、案内された部屋には魔王シルヴァリスの姿は無く、理子は室内を見渡す。
白いテーブルクロスが掛けられたテーブルには、一人分のカトラリーしかセットされていない。
「エルザ、魔王様はいらっしゃらないの?」
「火急の案件のため、来られないそうです」
「そう……」
シルヴァリスとは朝以来、顔を合わせていなかった。
魔王と言えども、ファンタジーの世界で勇者を待って玉座でふんぞり返っているのはゲームや漫画の魔王だけで、シルヴァリスは王様としての執務が忙しいのだという。
会えなくて寂しいということではなく、侍女や給仕係に見られて食べる食事は緊張する上に、誰かと会話が出来ない無いのが寂しい。
行儀が悪いと言われようがお上品なディナーより、楽しく話せる職場の社員食堂や行きつけの居酒屋の方が気が楽だ。
夕食を終え入浴を済ませた理子は、エルザとルーアンに全身マッサージを施されて全身ツルピカになった。
全身マッサージの気持ちよさから、彼方の世界へ戻ったら自分へのご褒美に月一くらいでエステへ通おう。
(シルヴァリス様は戻ってこないなら、自分で拭いてもいいかな)
半乾きの髪の毛が気になってタオルで拭いてしまおうかと、理子は銀細工で装飾された鏡台の前へ向かった。
「魔王様がいらっしゃいます」
タイミングよくかけられたエルザの声に、タオルを持つ手が止まる。
魔王の寝室へと続く扉が開き、濃紺色のシャツの上に黒色のガウンを羽織ったシルヴァリスが室内へ足へ踏み入れた。
壁際に下がったエルザとルーアンは、一礼をして部屋を後にした。
既に入浴は済ませたらしく、シルヴァリスからは仄かに花の香りがする。
「遅くなった」
慣れない場所で一人は大変だったとか、一人で夕飯は寂しかったのに、と言うのは恥ずかしくて理子はぐっと言葉を飲み込む。
「シルヴァリス様、お仕事お疲れ様です」
赤い目を細めてシルヴァリスは私を見下ろし、右手を差し出した。
「リコ」
名を呼ばれた理子は、いつも通りシルヴァリスの前へと歩み寄る。
ふわり
あたたかな風が吹いて、半乾きの髪がふんわりと乾く。
髪から仄かに香るのは、甘く陶酔させるような、エキゾチックでフローラルな香り。
この香りは彼の気分次第だと気付いたのは、いつの頃だろうか。
甘い香りに、私の心がゆらゆら揺れる。
乾いた髪に手を伸ばしたシルヴァリスは、サラサラと艶さらになった髪の感触を楽しむように指先で髪を弄ぶ。
『魔王様のご世継ぎを...』
甘い香りに酔ってしまい、うっとりと目蓋を閉じて与えられる指先の動きを感じていた私は、ふと、ベアトリクスの発言を思い出して我に返った。
危ない。
このまま、シルヴァリスとの間に漂う甘ったるい雰囲気に流されてしまったら、そういう事態、後戻り出来ない非常に不味い事態になる予感がする。
「どうした?」
シルヴァリスの顔を見ているのが恥ずかしくて、理子は横を向いた。
髪を弄んでいたシルヴァリスの長い指が理子の頬を撫でていく。
「っ、くすぐったいだけです」
真っ赤に染まった顔を見られたくなくて、理子はさらに顔を背けた。
クツリと喉を鳴らす音と共に、頬から指が離れる。
「まぁいい。行くか」
ぱさりっ、
シルヴァリスは理子の肩へ、どこからか用意したらしい藍色のショールを掛ける。
「行くって何処に?」
カシミヤ素材に似た暖かなショールを掻き抱く理子の問いには答えず、シルヴァリスは彼女の腰を右手で抱え込んで歩き出した。
「ちょっと、シルヴァリス様!?」
理子の声を無視したまま、シルヴァリスはテラスへ続く窓を乱暴に開け放った。