くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
城下街の上空を駆け抜けて、理子とシルヴァリスを乗せた白馬は小高い丘へと降り立った。
白馬の背から飛び降りたシルヴァリスに手を引かれて、理子は彼の胸の中へと落ちる。
ふんわりと、優しく受け止める腕にしがみつきながら、理子は地面へと降り立った。
「きれい……」
辺りを見渡した理子は大きく目を見開いた。
青白い燐光を放つ鈴蘭に似た小さな白い花が咲き、周囲を照らす淡い光を放っていたのだ。
シルヴァリスに手を引かれて歩く。
風に揺れる度、青白く発光する花粉か胞子が白い花から舞い上がった。
丘の一番高くなっている場所まで歩くと、シルヴァリスは足を止めた。
青白い光の花畑に美しい魔王が佇む、という幻想的な光景に、理子はほぅと感嘆の息を吐く。
「此処は、城と城下が見渡せる場所だ」
丘の上から見下ろした先には、巨大な城郭と城下街が広がり建物から漏れる灯りが夜の闇を黄や橙、白色に彩っていた。
端から端まで何十㎞あるのか分からないくらいの大都市、それが魔国の首都ガルドネア。
「お城の外には、こんな広い街が広がっているんですね。きちんと整備されているんだ」
白馬の上から見た時は煉瓦や石作りの建物がひしめき合っているように見えたが、丘の上から見ると碁盤の目のように整然と並べられているのがよくわかる。
「城下はブロックごと区切ってある。貴族が住まう区画、工房区間、住宅区画、商店が並ぶ中心街といったようにな」
城に近い区画が貴族が住まう場所で、街の中心部が商業区画、商業区画の隣は工房区画らしい。
よく目を凝らせば、貴族の居住区画には大きくて立派な建物、中心部は煌びやかな光が集まっていて理子は目を輝かせた。
「昼間、街に行って商店街を歩いてみたいなぁ」
魔国の首都だから、きっと魔法の力がこもった特殊な小物や服が売っているだろう。出来たら工房も覗いてみたい。
昼間の城下街へ行ってみたい。
期待を込めて理子はシルヴァリスの方を振り返った。
「駄目だ」
理子の期待を魔王はバッサリと切り捨てる。
「魔国の事、この世界の理を学んでからでなければ、お前は城から出せぬ」
「だから、私に勉強させているの?」
唇を尖らせて問えば「ああ」とシルヴァリスは頷く。
「でも、お、お妃教育って、その、どういう事ですか?」
少々吃りながらも、理子はシルヴァリスに問う。
マクリーン侍女長は、お妃教育はシルヴァリスの意向だと言っていた。
しかし、理子はそれについて何も聞いていない。
今回は、お盆休みの観光目的の滞在だと事前に伝えてある筈だ。
「簡単な事だ」
ザアー……
風が吹き抜けて、青白い燐光が舞い上がる。
「我は、行く行くはお前を正妃に、と望んでいる」
吹き抜ける風の音に逆らって理子の耳に届いた台詞に、呆然とシルヴァリスを見上げてしまった。
「私が、お妃様……? 私は、住む世界が違うし、人だし、貴方は、何を言っているの……?」
城下に広がる街を見下ろした後に、国を治める魔王からお妃様に望むと言われても素直に頷けはしない。
ただの一般人である自分が、そんな器ではないのは自分が一番分かっていた。
シルヴァリスの指が伸びて理子の顎を捕らえる。
「嫌か?」
上から覗き込むシルヴァリスの赤い瞳は、真っ直ぐに理子を見詰めていた。
「我の妃になるのは、そんなに嫌か?」
「嫌と言うか……」
顎を捕らえる指は離してもらえず、理子は僅かな抵抗として目蓋を臥せた。
「私はお盆休みをのんびり過ごしにきたのに、周りからいきなりそんな扱いを受けたら……どうしたら良いのか分からなくなるよ?」
一般人として育ってきた理子が、いきなり魔王の寵姫扱いをされても戸惑うだけ。
綺麗なドレスを着せられて、美味しい物を食べさせてもらっても自由がなければ息苦しい。
それに、理子が正妃になることを望むと言う魔王はいつだって不意打ちばかりで、説明不足なのだ。
白馬の背から飛び降りたシルヴァリスに手を引かれて、理子は彼の胸の中へと落ちる。
ふんわりと、優しく受け止める腕にしがみつきながら、理子は地面へと降り立った。
「きれい……」
辺りを見渡した理子は大きく目を見開いた。
青白い燐光を放つ鈴蘭に似た小さな白い花が咲き、周囲を照らす淡い光を放っていたのだ。
シルヴァリスに手を引かれて歩く。
風に揺れる度、青白く発光する花粉か胞子が白い花から舞い上がった。
丘の一番高くなっている場所まで歩くと、シルヴァリスは足を止めた。
青白い光の花畑に美しい魔王が佇む、という幻想的な光景に、理子はほぅと感嘆の息を吐く。
「此処は、城と城下が見渡せる場所だ」
丘の上から見下ろした先には、巨大な城郭と城下街が広がり建物から漏れる灯りが夜の闇を黄や橙、白色に彩っていた。
端から端まで何十㎞あるのか分からないくらいの大都市、それが魔国の首都ガルドネア。
「お城の外には、こんな広い街が広がっているんですね。きちんと整備されているんだ」
白馬の上から見た時は煉瓦や石作りの建物がひしめき合っているように見えたが、丘の上から見ると碁盤の目のように整然と並べられているのがよくわかる。
「城下はブロックごと区切ってある。貴族が住まう区画、工房区間、住宅区画、商店が並ぶ中心街といったようにな」
城に近い区画が貴族が住まう場所で、街の中心部が商業区画、商業区画の隣は工房区画らしい。
よく目を凝らせば、貴族の居住区画には大きくて立派な建物、中心部は煌びやかな光が集まっていて理子は目を輝かせた。
「昼間、街に行って商店街を歩いてみたいなぁ」
魔国の首都だから、きっと魔法の力がこもった特殊な小物や服が売っているだろう。出来たら工房も覗いてみたい。
昼間の城下街へ行ってみたい。
期待を込めて理子はシルヴァリスの方を振り返った。
「駄目だ」
理子の期待を魔王はバッサリと切り捨てる。
「魔国の事、この世界の理を学んでからでなければ、お前は城から出せぬ」
「だから、私に勉強させているの?」
唇を尖らせて問えば「ああ」とシルヴァリスは頷く。
「でも、お、お妃教育って、その、どういう事ですか?」
少々吃りながらも、理子はシルヴァリスに問う。
マクリーン侍女長は、お妃教育はシルヴァリスの意向だと言っていた。
しかし、理子はそれについて何も聞いていない。
今回は、お盆休みの観光目的の滞在だと事前に伝えてある筈だ。
「簡単な事だ」
ザアー……
風が吹き抜けて、青白い燐光が舞い上がる。
「我は、行く行くはお前を正妃に、と望んでいる」
吹き抜ける風の音に逆らって理子の耳に届いた台詞に、呆然とシルヴァリスを見上げてしまった。
「私が、お妃様……? 私は、住む世界が違うし、人だし、貴方は、何を言っているの……?」
城下に広がる街を見下ろした後に、国を治める魔王からお妃様に望むと言われても素直に頷けはしない。
ただの一般人である自分が、そんな器ではないのは自分が一番分かっていた。
シルヴァリスの指が伸びて理子の顎を捕らえる。
「嫌か?」
上から覗き込むシルヴァリスの赤い瞳は、真っ直ぐに理子を見詰めていた。
「我の妃になるのは、そんなに嫌か?」
「嫌と言うか……」
顎を捕らえる指は離してもらえず、理子は僅かな抵抗として目蓋を臥せた。
「私はお盆休みをのんびり過ごしにきたのに、周りからいきなりそんな扱いを受けたら……どうしたら良いのか分からなくなるよ?」
一般人として育ってきた理子が、いきなり魔王の寵姫扱いをされても戸惑うだけ。
綺麗なドレスを着せられて、美味しい物を食べさせてもらっても自由がなければ息苦しい。
それに、理子が正妃になることを望むと言う魔王はいつだって不意打ちばかりで、説明不足なのだ。