くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
正妃うんぬんは置いておいて、せめて「好意を持っている」とでも言ってくれたら、理子も自分でも迷っている魔王への気持ちを整理出来たのだ。
「お妃教育とかいきなり言われて混乱したし、妃になるかならない以前に貴方から説明をして欲しかった」
「説明したら、リコは逃げるだろうが」
捕らえていた理子の顎から指を放し、シルヴァリスは口元だけの笑みを浮かべる。
「どうして、私を望むの? 貴方は魔王様で、権力も力もあって、女の人にも不自由していないって言っていたでしょ?」
自分で言った台詞なのに胸が痛くなる。
ジワリと目頭が熱くなっていく。
涙を堪える顔は、相当不細工なものになっていることだろう。
シルヴァリスは目蓋を伏せて理子から視線を逸らす。
「初めは、ただの興味だった。何重にも結界を施してある、我の寝室に穴を開けたのは何者かという興味。穴を開けられた理由を吐かしたら、生意気な女は殺して終いにしてやろうと思っていた」
部屋の壁の穴から聞こえてきた声を鈴木君と勘違いしている間、かなり危ない状況だったと知り理子の涙は引っ込んでいく。
「だが、部屋を繋げた女は妙な勘違いをしている上に、毛色の変わった異世界の女。リコと関わるのは、ただの戯れのつもりだったのだ。空間を隔てた会話のみで、関わるつもりは無かった」
「じゃあ、どうして?」
あの日、シルヴァリスは理子を自分の元へ喚んだのか。
ただの気紛れで、加護の玉を与えて助けてくれたというのか。
「時には不敬な、ふざけた物言いばかりのリコが泣いていることが哀れで泣かせぬようにと喚べば、次に手放すのが惜しくなった。今更、リコが他の男のモノになるのは赦せぬ。他の男に渡すくらいなら、手足を縛り余計な思考を壊して永遠に出られぬ檻の中へ閉じ込めてやろうか」
シルヴァリスの赤い瞳に暗い光が宿る。
とんでもない事を宣う彼の姿は、見惚れてしまうくらい綺麗だった。
「傍らに置いて愛でていたい、誰の目にも触れさせずに仕舞いこんでおきたいのは、これが好いている、という感情なのだろう」
「好き、というか……それは」
恋とか愛なんて生温いものじゃない。
魔王の抱く感情は、どうしようもないくらいの、執着だ。
抱き枕扱いだなんてものじゃなかった。
理子を欲し、肉体を、魂までを貪り尽くしたいという、強い渇望。
美しい魔王の思考に、暗い光を放つ赤い瞳に、理子は背筋が寒くなる。
「わ、私は、今はまだ、どうしたらいいか分からないの」
自分の何処が、何が魔王の琴線に触れて執着されたのだろうか。
ジリジリと後ずさる理子の腰に腕が回されて、こっそり後ずさって空けた距離を一気に引き戻される。
「お前が妃にならぬと言っても、逃がすつもりはないがな」
ニヤリと、シルヴァリスは口の端を吊り上げた。
「ただ、選択肢は与えよう」
シルヴァリスは、内心汗をだらだら流して固まる理子の髪を一房掴む。
「お盆休みとやらが終わるまで猶予をやる。彼方へ還るまでに、心を決めろ。我の妃になるか、ならぬかを」
目線は理子へ向けたまま、恭しくシルヴァリスは掴んだ髪に口付けを落とした。
(これって、断ったら、監禁されるコースなんじゃないの?)
選択肢は与えるとか口では言っていても、きっと魔王は逃してくれはしない。
今までだって、じわじわと彼に依存させるように、理子に優しく触れて甘やかして腕の中へと閉じ込めているもの。
お前の居場所は此処だ、と刷り込むように。
魔王と繋がっている以上は逃げられない、という刷り込みのせいで彼の腕の中が心地良く感じてしまった理子には、選択肢なんて無い気がする。
けれども、まだ猶予を与えてくれる間は、逃げ道を作っておいてくれる間は、全力で逃げようと思った。
「お妃教育とかいきなり言われて混乱したし、妃になるかならない以前に貴方から説明をして欲しかった」
「説明したら、リコは逃げるだろうが」
捕らえていた理子の顎から指を放し、シルヴァリスは口元だけの笑みを浮かべる。
「どうして、私を望むの? 貴方は魔王様で、権力も力もあって、女の人にも不自由していないって言っていたでしょ?」
自分で言った台詞なのに胸が痛くなる。
ジワリと目頭が熱くなっていく。
涙を堪える顔は、相当不細工なものになっていることだろう。
シルヴァリスは目蓋を伏せて理子から視線を逸らす。
「初めは、ただの興味だった。何重にも結界を施してある、我の寝室に穴を開けたのは何者かという興味。穴を開けられた理由を吐かしたら、生意気な女は殺して終いにしてやろうと思っていた」
部屋の壁の穴から聞こえてきた声を鈴木君と勘違いしている間、かなり危ない状況だったと知り理子の涙は引っ込んでいく。
「だが、部屋を繋げた女は妙な勘違いをしている上に、毛色の変わった異世界の女。リコと関わるのは、ただの戯れのつもりだったのだ。空間を隔てた会話のみで、関わるつもりは無かった」
「じゃあ、どうして?」
あの日、シルヴァリスは理子を自分の元へ喚んだのか。
ただの気紛れで、加護の玉を与えて助けてくれたというのか。
「時には不敬な、ふざけた物言いばかりのリコが泣いていることが哀れで泣かせぬようにと喚べば、次に手放すのが惜しくなった。今更、リコが他の男のモノになるのは赦せぬ。他の男に渡すくらいなら、手足を縛り余計な思考を壊して永遠に出られぬ檻の中へ閉じ込めてやろうか」
シルヴァリスの赤い瞳に暗い光が宿る。
とんでもない事を宣う彼の姿は、見惚れてしまうくらい綺麗だった。
「傍らに置いて愛でていたい、誰の目にも触れさせずに仕舞いこんでおきたいのは、これが好いている、という感情なのだろう」
「好き、というか……それは」
恋とか愛なんて生温いものじゃない。
魔王の抱く感情は、どうしようもないくらいの、執着だ。
抱き枕扱いだなんてものじゃなかった。
理子を欲し、肉体を、魂までを貪り尽くしたいという、強い渇望。
美しい魔王の思考に、暗い光を放つ赤い瞳に、理子は背筋が寒くなる。
「わ、私は、今はまだ、どうしたらいいか分からないの」
自分の何処が、何が魔王の琴線に触れて執着されたのだろうか。
ジリジリと後ずさる理子の腰に腕が回されて、こっそり後ずさって空けた距離を一気に引き戻される。
「お前が妃にならぬと言っても、逃がすつもりはないがな」
ニヤリと、シルヴァリスは口の端を吊り上げた。
「ただ、選択肢は与えよう」
シルヴァリスは、内心汗をだらだら流して固まる理子の髪を一房掴む。
「お盆休みとやらが終わるまで猶予をやる。彼方へ還るまでに、心を決めろ。我の妃になるか、ならぬかを」
目線は理子へ向けたまま、恭しくシルヴァリスは掴んだ髪に口付けを落とした。
(これって、断ったら、監禁されるコースなんじゃないの?)
選択肢は与えるとか口では言っていても、きっと魔王は逃してくれはしない。
今までだって、じわじわと彼に依存させるように、理子に優しく触れて甘やかして腕の中へと閉じ込めているもの。
お前の居場所は此処だ、と刷り込むように。
魔王と繋がっている以上は逃げられない、という刷り込みのせいで彼の腕の中が心地良く感じてしまった理子には、選択肢なんて無い気がする。
けれども、まだ猶予を与えてくれる間は、逃げ道を作っておいてくれる間は、全力で逃げようと思った。