くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
雲一つ無い青空、眩しいくらいの強い陽射し、吹き抜ける風は潮の臭いがする。
目の前には海が広がり、理子が立っている桟橋の先には海鳥が止まっていた。
海風によって翻るドレスの裾を手で押さえる。
「此処は……?」
ゆっくりと振り返って周囲を確認する。
理子が立っているのは船着き場のようで、他にも桟橋が並びすぐ近くには石造りの建物が二棟、少し離れた場所には大きなドーム型の建物が建っていた。
ドーム型の建物の奥には石造りの建物が建ち並んでいるのが見える。
「此処は、港町?」
まさか、見知らぬ場所へ来てしまうとは想定外だった。
教育を受けていても魔国以外の、この世界の地理までは学んでおらず、此処がどこなのか全く分からない。
(困ったわ。だけど、これはチャンスじゃないの?)
理子の中で困ったという戸惑いと、城から出られて観光が出来るのでは、という高揚感が沸き上がってくる。
(すぐシルヴァリス様に見付けられちゃうだろうし、自由気ままに出歩いてもいいよね?)
折角、異世界へ来たのだし、身の丈にあった範囲でのファンタジーな世界を楽しみたい。
この町へは来てしまったのは、そう、事故なのだ。
動き回っても、後でシルヴァリスに怒られない、はず。
水鏡の間に残してきたベアトリクスが責められないか心配だが、彼女なら自分で乗り切れる。きっと大丈夫だろう。
建物が建ち並んでいる方へと歩き出した時、丁度、石造りの建物から出てきた男達が理子に気が付いて、怪訝そうに顔を見合わせた。
「お嬢様、もう船は出ちまいましたよ。次の便を待つのでしたら、あっちの待合所でお願いします」
「あ、ありがとうございます」
近付いて声をかけてきたのは、頭にバンダナを巻き、汗と砂で薄汚れたシャツを着た浅黒く日焼けをした筋肉質の如何にも海の男、といった風体の男だった。
お嬢様と呼ばれてから、理子は今の自分の格好を思い出した。
港には似つかわしくないつ綺麗なドレス姿。
良いところのお嬢様風なのに、お供の者を連れていないのは訳ありだからかと、不審がられているようで注目されているような視線を感じる。
(どうしよう。服を着替えないと、目立つよね)
着ているのはシンプルなドレスとはいえ、この格好で町は歩けない。
肩に掛けているショールを掻き抱き、胸元を隠した。
「あの、すみません」
一見すると良家のお嬢様といった理子が話し掛けてくるとは思っていなかったのか、荷造りの作業の手を止めた男達は吃驚した表情になる。
「服を買いたいのですが、私、この町のお店に疎いので、よろしければお店を教えてくれませんか?」
「「お店ぇ?」」
世間知らずな深窓の令嬢に見えるようにおしとやかに言えば、男達はすっとんきょうな声を上げた。
港町ヘルデル。
この町で、船乗りから紳士淑女、冒険者まで、幅広い客層を相手に商売を展開している衣料品店ライトンの店主は、溜め息混じりにティータイムを中断して窓の外を見た。
今日は月に一度しかない定休日だというのに、出入口の扉を力一杯叩く不届き者が来訪したのだ。
後ろで一纏めにした褐色の髪に、白いものが少し混じった初老の男性は、鳴り止まぬノック音に根負けしてハンガーに掛けてある上着を羽織りながら一階の店舗へと向かった。
出入口の扉にかけてある魔法の鍵を、店主が解錠したと同時に扉が開かれた。
「いらっしゃいま、せ?」
不届きな船乗り達と一緒に来店した若い女性を見て、店主の目は大きく見開かれた。
「おーい、このお嬢さんが買い物をしたいんだと」
扉を壊す勢いで叩いていた船乗りの男は、店主の肩をバシバシと叩く。
馴れ馴れしい態度と肩を叩かれた痛みに、店主は顔を歪めた。
普段なら船乗りへ怒鳴り返すところだが、今は珍しい客人が一緒のため唇を噛んでグッと堪えて女性へ一礼する。
「案内ありがとうございます」
少々強引だったが、案内してくれた上に定休日の店まで開けさせた船乗り達に、女性は頭を下げる。
「いいって、リコさんもこの町で休暇を楽しんでなー」
「港にも顔だしてくれよー」
船乗りたちと話しているうちに、理子は害がない娘だと判断されたらしく、家出娘として随分心配された。
実年齢より幼く見られてしまう理子は、此処でも年端もいかない少女だと思われたらしい。
何度も振り返り、男達は手を振って去って行った。
目の前には海が広がり、理子が立っている桟橋の先には海鳥が止まっていた。
海風によって翻るドレスの裾を手で押さえる。
「此処は……?」
ゆっくりと振り返って周囲を確認する。
理子が立っているのは船着き場のようで、他にも桟橋が並びすぐ近くには石造りの建物が二棟、少し離れた場所には大きなドーム型の建物が建っていた。
ドーム型の建物の奥には石造りの建物が建ち並んでいるのが見える。
「此処は、港町?」
まさか、見知らぬ場所へ来てしまうとは想定外だった。
教育を受けていても魔国以外の、この世界の地理までは学んでおらず、此処がどこなのか全く分からない。
(困ったわ。だけど、これはチャンスじゃないの?)
理子の中で困ったという戸惑いと、城から出られて観光が出来るのでは、という高揚感が沸き上がってくる。
(すぐシルヴァリス様に見付けられちゃうだろうし、自由気ままに出歩いてもいいよね?)
折角、異世界へ来たのだし、身の丈にあった範囲でのファンタジーな世界を楽しみたい。
この町へは来てしまったのは、そう、事故なのだ。
動き回っても、後でシルヴァリスに怒られない、はず。
水鏡の間に残してきたベアトリクスが責められないか心配だが、彼女なら自分で乗り切れる。きっと大丈夫だろう。
建物が建ち並んでいる方へと歩き出した時、丁度、石造りの建物から出てきた男達が理子に気が付いて、怪訝そうに顔を見合わせた。
「お嬢様、もう船は出ちまいましたよ。次の便を待つのでしたら、あっちの待合所でお願いします」
「あ、ありがとうございます」
近付いて声をかけてきたのは、頭にバンダナを巻き、汗と砂で薄汚れたシャツを着た浅黒く日焼けをした筋肉質の如何にも海の男、といった風体の男だった。
お嬢様と呼ばれてから、理子は今の自分の格好を思い出した。
港には似つかわしくないつ綺麗なドレス姿。
良いところのお嬢様風なのに、お供の者を連れていないのは訳ありだからかと、不審がられているようで注目されているような視線を感じる。
(どうしよう。服を着替えないと、目立つよね)
着ているのはシンプルなドレスとはいえ、この格好で町は歩けない。
肩に掛けているショールを掻き抱き、胸元を隠した。
「あの、すみません」
一見すると良家のお嬢様といった理子が話し掛けてくるとは思っていなかったのか、荷造りの作業の手を止めた男達は吃驚した表情になる。
「服を買いたいのですが、私、この町のお店に疎いので、よろしければお店を教えてくれませんか?」
「「お店ぇ?」」
世間知らずな深窓の令嬢に見えるようにおしとやかに言えば、男達はすっとんきょうな声を上げた。
港町ヘルデル。
この町で、船乗りから紳士淑女、冒険者まで、幅広い客層を相手に商売を展開している衣料品店ライトンの店主は、溜め息混じりにティータイムを中断して窓の外を見た。
今日は月に一度しかない定休日だというのに、出入口の扉を力一杯叩く不届き者が来訪したのだ。
後ろで一纏めにした褐色の髪に、白いものが少し混じった初老の男性は、鳴り止まぬノック音に根負けしてハンガーに掛けてある上着を羽織りながら一階の店舗へと向かった。
出入口の扉にかけてある魔法の鍵を、店主が解錠したと同時に扉が開かれた。
「いらっしゃいま、せ?」
不届きな船乗り達と一緒に来店した若い女性を見て、店主の目は大きく見開かれた。
「おーい、このお嬢さんが買い物をしたいんだと」
扉を壊す勢いで叩いていた船乗りの男は、店主の肩をバシバシと叩く。
馴れ馴れしい態度と肩を叩かれた痛みに、店主は顔を歪めた。
普段なら船乗りへ怒鳴り返すところだが、今は珍しい客人が一緒のため唇を噛んでグッと堪えて女性へ一礼する。
「案内ありがとうございます」
少々強引だったが、案内してくれた上に定休日の店まで開けさせた船乗り達に、女性は頭を下げる。
「いいって、リコさんもこの町で休暇を楽しんでなー」
「港にも顔だしてくれよー」
船乗りたちと話しているうちに、理子は害がない娘だと判断されたらしく、家出娘として随分心配された。
実年齢より幼く見られてしまう理子は、此処でも年端もいかない少女だと思われたらしい。
何度も振り返り、男達は手を振って去って行った。