くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
2.壁越しの交流
キィン―……
薄暗くなった室内に、何かが軋む音が聞こえて、理子はスイッチを指で押したまま固まった。
昨日もこの音が響いた後、キャラを変えた鈴木君の声が壁の穴から聞こえて来たのだ。
「……女」
壁の向こうから聞こえてきた低音の男性の声に、理子の肩はビクリと揺れる。
玄関扉の開閉音は聞こえなかったが、気付かない間に鈴木君は帰ってきたのか。
「女、其処にいるのだろう」
横柄な、偉そうな響きを含んだ男の声は、先程話した鈴木君の声なのか? 隣室の住民は鈴木君と彼女だけしかいないのだから、声の主は泥棒か鈴木君のはずだ。
「ええっと、鈴木君、だよね?」
泥棒の可能性を思い付いてしまい、理子の言葉は徐々に尻窄みとなっていく。
「何故、貴様と我の部屋が繋がるのだ」
壁の向こうの鈴木君は問いには応えず、理子に問い返す。
「繋がるもなにも、お隣さんだから仕方無いでしょう。この穴は管理会社に連絡して直してもらうから、少しの間だけ我慢してね」
会話がしやすいように、理子はタンスの前へ座布団を運んでその上に座る。
「隣、だと?」
費用の心配か壁に穴が開いた不快感からか、鈴木君は急に沈黙した。
「……我の部屋には幾重にも結界が張り巡らしてある。結界を破ることができるのは、我と並ぶ程の魔力を持つ者だけだ。術式を組み合わせ時間をかければ破れるやも知れぬが、そんな気配は全く無かった。貴様は何なのだ」
いきなり鈴木君がファンタジーな事を言い出すものだから、堪えきれずに理子はぷぷっと吹き出す。
「結界? あらいやだ鈴木君って中二病を患っているの?」
暴力的な性癖やちょっとエキセントリックな女性と浮気しちゃうし、自分の事を我とか言うし、見た目今時青年の鈴木君がまさかの中二病とは。
裏のキャラ設定が濃いというか、いろんな属性を持っていらっしゃる。
中二病を患っていると分かると、今まで散々睡眠妨害をされたのも仕方無いと、ほんの少しだけ許せてしまう。
「中二病? 貴様は珍妙な言葉を操るな」
「珍妙って言葉を口に出す方が変わっていると思うけど。そういや、今日は女の人はいないんだね」
壁の向こう側からは、連日聞こえた艶っぽい女性の声も彼以外の気配もしない。
「女の声がうるさいと、貴様が言ってきただろうが」
「え?」
きょとんとなった理子は、壁に貼ったままの防音シートを見つめてしまった。
意外だ。表面上じゃなくきちんと反省をしたらしい。もしくは、ご両親か大家さんから叱られたのか。
「いいの? 大事な相手じゃないの?」
「大事、だと? くくくっ、我の寵を得たくて群がってくる身の程知らずで愚かな女共だ」
「うわっ最低」
古風な上に、最低な発言をする鈴木君に呆れた理子は、体を仰け反らせた。
最低発言も口調も若者らしくない彼は、自分はファンタジー世界の悪い権力者なのだと、思い込んでいる中二病が治っていない残念な若者だ確信した。
「……女、我が何者か分かっているのか?」
「うん。私のお隣さんでしょ。先ずはその中二病、早く治した方がいいよ。そろそろ寝たいからもういいかな? お休みなさい」
欠伸を噛み殺した理子は、一方的に会話の終了を告げる。
防音シートがビリビリと震えた気がしたが、気のせいにしてベッドへ向かった。
薄暗くなった室内に、何かが軋む音が聞こえて、理子はスイッチを指で押したまま固まった。
昨日もこの音が響いた後、キャラを変えた鈴木君の声が壁の穴から聞こえて来たのだ。
「……女」
壁の向こうから聞こえてきた低音の男性の声に、理子の肩はビクリと揺れる。
玄関扉の開閉音は聞こえなかったが、気付かない間に鈴木君は帰ってきたのか。
「女、其処にいるのだろう」
横柄な、偉そうな響きを含んだ男の声は、先程話した鈴木君の声なのか? 隣室の住民は鈴木君と彼女だけしかいないのだから、声の主は泥棒か鈴木君のはずだ。
「ええっと、鈴木君、だよね?」
泥棒の可能性を思い付いてしまい、理子の言葉は徐々に尻窄みとなっていく。
「何故、貴様と我の部屋が繋がるのだ」
壁の向こうの鈴木君は問いには応えず、理子に問い返す。
「繋がるもなにも、お隣さんだから仕方無いでしょう。この穴は管理会社に連絡して直してもらうから、少しの間だけ我慢してね」
会話がしやすいように、理子はタンスの前へ座布団を運んでその上に座る。
「隣、だと?」
費用の心配か壁に穴が開いた不快感からか、鈴木君は急に沈黙した。
「……我の部屋には幾重にも結界が張り巡らしてある。結界を破ることができるのは、我と並ぶ程の魔力を持つ者だけだ。術式を組み合わせ時間をかければ破れるやも知れぬが、そんな気配は全く無かった。貴様は何なのだ」
いきなり鈴木君がファンタジーな事を言い出すものだから、堪えきれずに理子はぷぷっと吹き出す。
「結界? あらいやだ鈴木君って中二病を患っているの?」
暴力的な性癖やちょっとエキセントリックな女性と浮気しちゃうし、自分の事を我とか言うし、見た目今時青年の鈴木君がまさかの中二病とは。
裏のキャラ設定が濃いというか、いろんな属性を持っていらっしゃる。
中二病を患っていると分かると、今まで散々睡眠妨害をされたのも仕方無いと、ほんの少しだけ許せてしまう。
「中二病? 貴様は珍妙な言葉を操るな」
「珍妙って言葉を口に出す方が変わっていると思うけど。そういや、今日は女の人はいないんだね」
壁の向こう側からは、連日聞こえた艶っぽい女性の声も彼以外の気配もしない。
「女の声がうるさいと、貴様が言ってきただろうが」
「え?」
きょとんとなった理子は、壁に貼ったままの防音シートを見つめてしまった。
意外だ。表面上じゃなくきちんと反省をしたらしい。もしくは、ご両親か大家さんから叱られたのか。
「いいの? 大事な相手じゃないの?」
「大事、だと? くくくっ、我の寵を得たくて群がってくる身の程知らずで愚かな女共だ」
「うわっ最低」
古風な上に、最低な発言をする鈴木君に呆れた理子は、体を仰け反らせた。
最低発言も口調も若者らしくない彼は、自分はファンタジー世界の悪い権力者なのだと、思い込んでいる中二病が治っていない残念な若者だ確信した。
「……女、我が何者か分かっているのか?」
「うん。私のお隣さんでしょ。先ずはその中二病、早く治した方がいいよ。そろそろ寝たいからもういいかな? お休みなさい」
欠伸を噛み殺した理子は、一方的に会話の終了を告げる。
防音シートがビリビリと震えた気がしたが、気のせいにしてベッドへ向かった。