くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
カランッカランッ
巨体が崩れ去り、ドラゴンの体を繋ぎ合わせていた金属の留め具が灰の上へ落ちた。
ほんの十数秒。
あれだけ冒険者たちが苦戦したドラゴンゾンビは呆気なく倒れたのだった。
「う、そっ」
大きく目を見開いて、エミリアは喘ぐように言う。
魔法を発動させる魔方陣も詠唱も無く、強力な魔法を、人族ではほとんどの者が扱えない闇の魔法を使ったのだ。
しかも理子を抱いたまま。人族には猛毒となる闇魔法を、彼女に影響を与えないよう配慮しながら発動させた男がただの魔族な訳はない。
高位も高位、この男は魔王の側近あたりだろうか。
魔力と存在感に圧倒され、エミリアの額から冷や汗が流れ落ちた。
「アイツがリコに所有印を刻んだ、魔族?」
チクチクと針で刺すような痛みを感じ、ウォルトは首を傾げた。
首を傾げるウォルトを一瞥したシルヴァリスは、すぐにテオドールへと視線を移す。
強力な魔力に圧倒されていたテオドールは、以前にもこれと似た感覚を感じた事があると、自分の記憶を探っていた。
幼い頃、銀髪赤目の魔族の見下ろされて動けなくなってしまったのだ。
「貴方は、まさかっ」
幼い自分に強烈な印象を与えた魔族が此処にいる。
何故だと半ば混乱した思いで、テオドールはシルヴァリスと彼に抱えられている理子を見た。
「シルヴァリス様、助けてくださってありがとうございます。あの、申し訳ありませんが、下ろして欲しいのですが」
「歩けるのなら、な」
なるべく穏便に頼んだつもりだったのに太股を支えるシルヴァリスの腕が動き、腫れて熱を持つ右足首をガッシリ掴む。
ピキリッと右足首に痛みが走って、理子は思いっきり顔を歪めた。
「痛っ! あ、歩けませんっ!」
痛みに顔を歪める理子に、シルヴァリスはニヤリと口角を上げて愉しそうな笑みを返す。
相変わらずの意地悪っぷりに、つい先程まで抱いていた感謝の気持ちが薄れる。
「何故……何故、貴方が此処にいらっしゃるのですか?」
驚きと戸惑い、そんな感情を全面に出した表情を浮かべながら、ふらつく足取りでテオドールはシルヴァリスの前まで歩み寄る。
「魔王陛下」
静かなテオドールの声が洞穴内に響き渡った。
「「魔王!?」」
数秒後、テオドールの言葉の意味を理解したウォルトとエミリアの声が重なって響いた。
痛いほどの三人の視線を感じて、反射的に理子はシルヴァリスの胸元の顔を埋める。
「我の寵姫を迎えに来ただけだ」
「えっ?」
「はぁ?」
「寵姫?」
サラッと放ったシルヴァリスの発言に、三人は驚きの声を漏らす。
失礼だ、とは思わなかった。
特に美人でも無く、取り柄もないのに魔王の寵愛を受けるなどと、魔王の色々拗らせた執着を知らなかったら、自分でも吃驚仰天する。
顔を上げていられなくて、シルヴァリスの胸元に涙を擦り付けてやれば、上から呆れたような苦笑いの音が聞こえた。
「それで、貴公こそ何故此処にいるのだ。アネイル国第三王子、テオドール殿」
ハッと息を飲んだテオドールは顔色を変えた。
(ええっ?)
王子様みたいだと思っていたテオドールが、本物の王子様だったとは。思わず理子はシルヴァリスとテオドールを交互に見る。
ウォルトとエミリアが無言なのは、彼等がテオドールの正体を知っていたからなのだろう。
「アネイルの第三王子は、王位継承権争いを嫌がり三年程前に国から出奔したと聞いていたが。気楽に冒険者などやっていてよいのか?」
「俺は、王子であることを捨てた。アネイルとは関係の無い、ただの、テオドールです」
シルヴァリスの問いに、絞り出すように答えるテオドールは瞳を伏せて俯いた。
巨体が崩れ去り、ドラゴンの体を繋ぎ合わせていた金属の留め具が灰の上へ落ちた。
ほんの十数秒。
あれだけ冒険者たちが苦戦したドラゴンゾンビは呆気なく倒れたのだった。
「う、そっ」
大きく目を見開いて、エミリアは喘ぐように言う。
魔法を発動させる魔方陣も詠唱も無く、強力な魔法を、人族ではほとんどの者が扱えない闇の魔法を使ったのだ。
しかも理子を抱いたまま。人族には猛毒となる闇魔法を、彼女に影響を与えないよう配慮しながら発動させた男がただの魔族な訳はない。
高位も高位、この男は魔王の側近あたりだろうか。
魔力と存在感に圧倒され、エミリアの額から冷や汗が流れ落ちた。
「アイツがリコに所有印を刻んだ、魔族?」
チクチクと針で刺すような痛みを感じ、ウォルトは首を傾げた。
首を傾げるウォルトを一瞥したシルヴァリスは、すぐにテオドールへと視線を移す。
強力な魔力に圧倒されていたテオドールは、以前にもこれと似た感覚を感じた事があると、自分の記憶を探っていた。
幼い頃、銀髪赤目の魔族の見下ろされて動けなくなってしまったのだ。
「貴方は、まさかっ」
幼い自分に強烈な印象を与えた魔族が此処にいる。
何故だと半ば混乱した思いで、テオドールはシルヴァリスと彼に抱えられている理子を見た。
「シルヴァリス様、助けてくださってありがとうございます。あの、申し訳ありませんが、下ろして欲しいのですが」
「歩けるのなら、な」
なるべく穏便に頼んだつもりだったのに太股を支えるシルヴァリスの腕が動き、腫れて熱を持つ右足首をガッシリ掴む。
ピキリッと右足首に痛みが走って、理子は思いっきり顔を歪めた。
「痛っ! あ、歩けませんっ!」
痛みに顔を歪める理子に、シルヴァリスはニヤリと口角を上げて愉しそうな笑みを返す。
相変わらずの意地悪っぷりに、つい先程まで抱いていた感謝の気持ちが薄れる。
「何故……何故、貴方が此処にいらっしゃるのですか?」
驚きと戸惑い、そんな感情を全面に出した表情を浮かべながら、ふらつく足取りでテオドールはシルヴァリスの前まで歩み寄る。
「魔王陛下」
静かなテオドールの声が洞穴内に響き渡った。
「「魔王!?」」
数秒後、テオドールの言葉の意味を理解したウォルトとエミリアの声が重なって響いた。
痛いほどの三人の視線を感じて、反射的に理子はシルヴァリスの胸元の顔を埋める。
「我の寵姫を迎えに来ただけだ」
「えっ?」
「はぁ?」
「寵姫?」
サラッと放ったシルヴァリスの発言に、三人は驚きの声を漏らす。
失礼だ、とは思わなかった。
特に美人でも無く、取り柄もないのに魔王の寵愛を受けるなどと、魔王の色々拗らせた執着を知らなかったら、自分でも吃驚仰天する。
顔を上げていられなくて、シルヴァリスの胸元に涙を擦り付けてやれば、上から呆れたような苦笑いの音が聞こえた。
「それで、貴公こそ何故此処にいるのだ。アネイル国第三王子、テオドール殿」
ハッと息を飲んだテオドールは顔色を変えた。
(ええっ?)
王子様みたいだと思っていたテオドールが、本物の王子様だったとは。思わず理子はシルヴァリスとテオドールを交互に見る。
ウォルトとエミリアが無言なのは、彼等がテオドールの正体を知っていたからなのだろう。
「アネイルの第三王子は、王位継承権争いを嫌がり三年程前に国から出奔したと聞いていたが。気楽に冒険者などやっていてよいのか?」
「俺は、王子であることを捨てた。アネイルとは関係の無い、ただの、テオドールです」
シルヴァリスの問いに、絞り出すように答えるテオドールは瞳を伏せて俯いた。