くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
転移魔法で遺跡の外へ出ると、中へ入った時は昼前だったのに、すっかり陽は傾いていた。
神殿の外に設置されていたお土産物と軽食の屋台は、地震の影響か営業時間が終了したのか店仕舞いされていて、理子はお昼ご飯を食べ損ねたと肩を落とす。
地下に落ち、ドラゴンゾンビに襲われ、魔王が来たことで頭が飽和状態となり空腹感が無いのは幸いだった。
未だにシルヴァリスに抱き抱えられている状態で、お腹が鳴ったら理子の精神は耐えられない。
「何か食べたい」とシルヴァリスに言いたいところだが、まだテオドール達が一緒のため言えなかった。
彼等が成そうとしている事に比べたら、理子のお気楽な悩みはあまりにも小さいのだから。
回復魔法で傷を癒し、血と埃を落として身綺麗になった彼等は、シルヴァリスがアネイル国の国境の町へと転移させるらしい。
「リコ、ありがとう。君に出逢えてよかった。君が切っ掛けをくれたから、俺は逃げるのを止められそうだ」
遺跡地下でのシルヴァリスとのやり取りで、何かを吹っ切ったテオドールは清々しい顔付きになっていた。
「私は、何もしていませんよ?」
普通に遺跡見学していただけだし、むしろドラゴンゾンビを倒したシルヴァリスの方が感謝されるべきだ。
「それでも、ありがとう」
首を傾げる理子に、テオドールは王子様の輝く笑顔で頭を下げた。
「じゃあ、私も腹を括って師匠と対決してくるね!」
地上へ戻る直前まで魔王の魔力に当てられて元気が無かったエミリアだが、地上の光と空気に調子を取り戻したようで大きく胸を張る。
「エミリアちゃん頑張ってね。ウォルトさんも気を、って、むがっ」
言葉の途中で、理子の口は伸びてきたシルヴァリスの手のひらで塞がれてしまった。
剥がそうとシルヴァリスの手を理子が引っ張っても、口を覆う手のひらは剥がれてくれない。
「駄目だ」
睨んでも駄目らしい。何故か、ウォルトに対してシルヴァリスは棘がある気がする。
手のひらで塞がれたまま、理子はウォルトに視線で謝っておいた。
転移魔法で国境の町まで転移して行くテオドール達を見送った後、空はもう夕暮れの茜色になっていた。
「ふぅ……」
捻って腫れてしまった右足首に回復魔法をかけてもらった理子は、漸くシルヴァリスの腕の中から解放された。
(今日も長くて濃い一日だったな)
一体、いつになったらゆっくり休むお盆休みを過ごせるのだろうか。
安堵したせいか、理子のお腹は空腹を訴えだす。
昼食兼夕飯を食べるなら、まだ食べていないこの地方の名物料理を食べたい。
「シルヴァリス様、私はお城に戻らなきゃ駄目ですか?」
「当たり前だ」
即答されて、理子はぐっ、と言葉に詰まる。
魔王様相手にごねても無意味だと、彼との付き合いの中で学んだ理子は「はぁー」と溜め息を吐いた。
「もう少し観光したかったな。せめてシルヴァリス様と一緒に、水の街ステンシアに行きたかったのに」
唇を尖らせて拗ねたように、残念がって呟いてみる。
魔国へ戻ったらシルヴァリスは魔王に縛られてしまう。
魔王じゃないシルヴァリスとデートらしい事をしてみたい、その思いを込めて理子はじっと赤い瞳を見上げた。
「……一日だけだ」
理子の狙い通り、仕方ないという心の声が聞こえてきそうな笑みを浮かべてシルヴァリスは了承する。
何だかんだ言って理子を甘やかす魔王は、下手なお願いよりこう伝えた方が聞いてくれる。
「ステンシアへ行き、観光とやらをしたら戻るぞ。腹も空いているのだろう」
転移するために、理子の指をシルヴァリスの長い指が絡め取る。
「本当!? シルヴァリス様! ありがとう!」
空腹を隠していたことに気付いてくれたのも、観光を許してくれた事も嬉しくて、理子はシルヴァリスの腕に抱き付いた。
神殿の外に設置されていたお土産物と軽食の屋台は、地震の影響か営業時間が終了したのか店仕舞いされていて、理子はお昼ご飯を食べ損ねたと肩を落とす。
地下に落ち、ドラゴンゾンビに襲われ、魔王が来たことで頭が飽和状態となり空腹感が無いのは幸いだった。
未だにシルヴァリスに抱き抱えられている状態で、お腹が鳴ったら理子の精神は耐えられない。
「何か食べたい」とシルヴァリスに言いたいところだが、まだテオドール達が一緒のため言えなかった。
彼等が成そうとしている事に比べたら、理子のお気楽な悩みはあまりにも小さいのだから。
回復魔法で傷を癒し、血と埃を落として身綺麗になった彼等は、シルヴァリスがアネイル国の国境の町へと転移させるらしい。
「リコ、ありがとう。君に出逢えてよかった。君が切っ掛けをくれたから、俺は逃げるのを止められそうだ」
遺跡地下でのシルヴァリスとのやり取りで、何かを吹っ切ったテオドールは清々しい顔付きになっていた。
「私は、何もしていませんよ?」
普通に遺跡見学していただけだし、むしろドラゴンゾンビを倒したシルヴァリスの方が感謝されるべきだ。
「それでも、ありがとう」
首を傾げる理子に、テオドールは王子様の輝く笑顔で頭を下げた。
「じゃあ、私も腹を括って師匠と対決してくるね!」
地上へ戻る直前まで魔王の魔力に当てられて元気が無かったエミリアだが、地上の光と空気に調子を取り戻したようで大きく胸を張る。
「エミリアちゃん頑張ってね。ウォルトさんも気を、って、むがっ」
言葉の途中で、理子の口は伸びてきたシルヴァリスの手のひらで塞がれてしまった。
剥がそうとシルヴァリスの手を理子が引っ張っても、口を覆う手のひらは剥がれてくれない。
「駄目だ」
睨んでも駄目らしい。何故か、ウォルトに対してシルヴァリスは棘がある気がする。
手のひらで塞がれたまま、理子はウォルトに視線で謝っておいた。
転移魔法で国境の町まで転移して行くテオドール達を見送った後、空はもう夕暮れの茜色になっていた。
「ふぅ……」
捻って腫れてしまった右足首に回復魔法をかけてもらった理子は、漸くシルヴァリスの腕の中から解放された。
(今日も長くて濃い一日だったな)
一体、いつになったらゆっくり休むお盆休みを過ごせるのだろうか。
安堵したせいか、理子のお腹は空腹を訴えだす。
昼食兼夕飯を食べるなら、まだ食べていないこの地方の名物料理を食べたい。
「シルヴァリス様、私はお城に戻らなきゃ駄目ですか?」
「当たり前だ」
即答されて、理子はぐっ、と言葉に詰まる。
魔王様相手にごねても無意味だと、彼との付き合いの中で学んだ理子は「はぁー」と溜め息を吐いた。
「もう少し観光したかったな。せめてシルヴァリス様と一緒に、水の街ステンシアに行きたかったのに」
唇を尖らせて拗ねたように、残念がって呟いてみる。
魔国へ戻ったらシルヴァリスは魔王に縛られてしまう。
魔王じゃないシルヴァリスとデートらしい事をしてみたい、その思いを込めて理子はじっと赤い瞳を見上げた。
「……一日だけだ」
理子の狙い通り、仕方ないという心の声が聞こえてきそうな笑みを浮かべてシルヴァリスは了承する。
何だかんだ言って理子を甘やかす魔王は、下手なお願いよりこう伝えた方が聞いてくれる。
「ステンシアへ行き、観光とやらをしたら戻るぞ。腹も空いているのだろう」
転移するために、理子の指をシルヴァリスの長い指が絡め取る。
「本当!? シルヴァリス様! ありがとう!」
空腹を隠していたことに気付いてくれたのも、観光を許してくれた事も嬉しくて、理子はシルヴァリスの腕に抱き付いた。