くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
未だに口元を押さえて、うえーっとなっている理子は、前から来た中年男性にぶつかりそうになりよろけた。
よろけて、転倒しかけた理子の腕をシルヴァリスが掴む。
「リコ、俺から離れるなよ」
耳が捉えた違和感に、理子は目を点にしてシルヴァリスを見た。
「俺?」
魔王シルヴァリスの一人称は“我”という中二病っぽいものじゃなかったか?
「ああ、人の姿に合わせているからな」
どうでもいい事のように言われたが、理子にとっては大問題だった。
(うあああー! 違い過ぎて、誰なのよ!)
“我”じゃなく“俺”だなんて、丸っきり別人みたいに感じる。
胸がキュンキュンしてときめく、どころじゃない。
此処が外で人目があるから我慢出来たが、もしも自室だったら悶えて転がってしまっていた。
理子にとって、それほどの破壊力があったのだ。
「先程から、お前はどうしたんだ?」
いくら苦酸っぱい薬膳ジュースを飲まされたとはいえ、妙な動きをする理子をシルヴァリスは訝しげに見る。
「シルヴァリス様が色々といつもと違うから、慣れなくて」
何時もと違う貴方に悶えてる、とは口が裂けても言えない。
頬を赤らめた理子に、シルヴァリスは一瞬ぽかんとした後、ニヤリと口の端を吊り上げた。
「成る程、では城に戻るまではこのままでいよう」
「えっ」
(それは、外見ですか? 性格ですか?)
嬉しいような、しんどいような。こんな感じで過ごしていたら自分の心が耐えられない、かもしれないという不安で頭を抱えたくなった。
***
夕飯は、美味しい料理を頂けるお店を薬膳ジュースを売っていた女性に教えてもらった、地元食材をふんだんに使った料理が自慢だという小さなレストランへ向かった。
夕飯時には少し早い時間帯だというのに、地元民や観光客で店内のテーブル席は満席となっていた。
食堂の壁には民芸品のタペストリーが飾られ、各テーブル上に小さな花と硝子の魚を型どった置物が飾られているのも可愛らしい。
ステンシア周辺の魚介類が入ったスープスパゲッティーを、理子はモグモグ咀嚼して飲み込む。
「美味しい〜」
魚介の出汁が出ているスープに、麺がよく絡まって美味しい。
残ったスープにつけて食べるようにと、バケットをサービスで貰えたのはラッキーだった。
「新婚さんだしサービスね」と言われた気もしたが、きっと空耳だと思う。
理子の向かいに座るシルヴァリスは、店員さんオススメのシーフードドリアと魚介のスープを注文していた。
お城の豪華な食堂ではなく、庶民的なレストランでまさか魔王と二人で夕飯を食べるとは。
違和感無く、シーフードドリアを食べているのが魔王とは、不思議な感じがする。
「シルヴァリス様は、こういったお店のご飯でもお口に合うの?」
高級店じゃなくて大丈夫かと、店へ入る前にも確認したが、普段食べている魔王様の食事と違って口に合わないのではと心配になる。
魔王らしく血が滴るステーキとか目玉ゼリーとか、本当はゲテモノ好きだったらどうしよう。
「リコには賑やかな方が気楽でよいだろう。俺も以前は、度々城を抜け出して人に紛れていたからな。特に気にならん」
もしかしてお城に滞在した時に、シルヴァリスと豪華な食事ではなく庶民的の食事を一緒に食べたいなと、呟いていた事を知っているのか。偶然にしては、彼の態度は色々と引っ掛かるのだ。
それと、城を抜け出して、人に紛れて遊んでいるシルヴァリスとか想像がつかない。
粛々と執務をこなす魔王の姿とは異なった、若者らしくふざけた遊びや女遊びをしていたのだろうか。
金髪縦ロール令嬢、ベアトリクスは、前王妃様と兄弟を皆殺しにして魔王に即位した恐ろしい方だと話していた。
冷酷無比な魔王、自分を甘やかす優しい彼、目の前の人臭い彼。シルヴァリスの“素の姿”はどれなんだろう。
「昔のシルヴァリス様ってどんな感じだったの?」
お城の魔族のヒト達の反応から、恐くて鬼畜で女関係が酷かったのか。
「さほど変わらんな。ただ、今よりは退屈だった」
城を抜け出して遊んでいたのに、退屈だったのかと理子は内心首を傾げた。
「リコの存在が無かったからな」
甘さを含んだ蕩けた優しい声で、シルヴァリスは微笑んだ。
「うえっ?」
理子の全身は茹で蛸のように真っ赤になる。
口の中に何も入れていなくてよかった。入っていたら、噎せるか吐き出していた。
(ど、どうしよう)
やはり、人の姿へと変化したせいで、魔王の中身が別人へと変化してしまったのではないのか。
何か裏があるのではないか。と、警戒していたのに、警戒心が崩れていく。
(うぎゃー! どうしよう、これが計算じゃなかったら、明日の朝まで耐えられないかもしれない)
観光をしたいだなんて我が儘を言わず、城へ戻った方が良かったのかも……知れない。
長い夜は始まったばかり。
よろけて、転倒しかけた理子の腕をシルヴァリスが掴む。
「リコ、俺から離れるなよ」
耳が捉えた違和感に、理子は目を点にしてシルヴァリスを見た。
「俺?」
魔王シルヴァリスの一人称は“我”という中二病っぽいものじゃなかったか?
「ああ、人の姿に合わせているからな」
どうでもいい事のように言われたが、理子にとっては大問題だった。
(うあああー! 違い過ぎて、誰なのよ!)
“我”じゃなく“俺”だなんて、丸っきり別人みたいに感じる。
胸がキュンキュンしてときめく、どころじゃない。
此処が外で人目があるから我慢出来たが、もしも自室だったら悶えて転がってしまっていた。
理子にとって、それほどの破壊力があったのだ。
「先程から、お前はどうしたんだ?」
いくら苦酸っぱい薬膳ジュースを飲まされたとはいえ、妙な動きをする理子をシルヴァリスは訝しげに見る。
「シルヴァリス様が色々といつもと違うから、慣れなくて」
何時もと違う貴方に悶えてる、とは口が裂けても言えない。
頬を赤らめた理子に、シルヴァリスは一瞬ぽかんとした後、ニヤリと口の端を吊り上げた。
「成る程、では城に戻るまではこのままでいよう」
「えっ」
(それは、外見ですか? 性格ですか?)
嬉しいような、しんどいような。こんな感じで過ごしていたら自分の心が耐えられない、かもしれないという不安で頭を抱えたくなった。
***
夕飯は、美味しい料理を頂けるお店を薬膳ジュースを売っていた女性に教えてもらった、地元食材をふんだんに使った料理が自慢だという小さなレストランへ向かった。
夕飯時には少し早い時間帯だというのに、地元民や観光客で店内のテーブル席は満席となっていた。
食堂の壁には民芸品のタペストリーが飾られ、各テーブル上に小さな花と硝子の魚を型どった置物が飾られているのも可愛らしい。
ステンシア周辺の魚介類が入ったスープスパゲッティーを、理子はモグモグ咀嚼して飲み込む。
「美味しい〜」
魚介の出汁が出ているスープに、麺がよく絡まって美味しい。
残ったスープにつけて食べるようにと、バケットをサービスで貰えたのはラッキーだった。
「新婚さんだしサービスね」と言われた気もしたが、きっと空耳だと思う。
理子の向かいに座るシルヴァリスは、店員さんオススメのシーフードドリアと魚介のスープを注文していた。
お城の豪華な食堂ではなく、庶民的なレストランでまさか魔王と二人で夕飯を食べるとは。
違和感無く、シーフードドリアを食べているのが魔王とは、不思議な感じがする。
「シルヴァリス様は、こういったお店のご飯でもお口に合うの?」
高級店じゃなくて大丈夫かと、店へ入る前にも確認したが、普段食べている魔王様の食事と違って口に合わないのではと心配になる。
魔王らしく血が滴るステーキとか目玉ゼリーとか、本当はゲテモノ好きだったらどうしよう。
「リコには賑やかな方が気楽でよいだろう。俺も以前は、度々城を抜け出して人に紛れていたからな。特に気にならん」
もしかしてお城に滞在した時に、シルヴァリスと豪華な食事ではなく庶民的の食事を一緒に食べたいなと、呟いていた事を知っているのか。偶然にしては、彼の態度は色々と引っ掛かるのだ。
それと、城を抜け出して、人に紛れて遊んでいるシルヴァリスとか想像がつかない。
粛々と執務をこなす魔王の姿とは異なった、若者らしくふざけた遊びや女遊びをしていたのだろうか。
金髪縦ロール令嬢、ベアトリクスは、前王妃様と兄弟を皆殺しにして魔王に即位した恐ろしい方だと話していた。
冷酷無比な魔王、自分を甘やかす優しい彼、目の前の人臭い彼。シルヴァリスの“素の姿”はどれなんだろう。
「昔のシルヴァリス様ってどんな感じだったの?」
お城の魔族のヒト達の反応から、恐くて鬼畜で女関係が酷かったのか。
「さほど変わらんな。ただ、今よりは退屈だった」
城を抜け出して遊んでいたのに、退屈だったのかと理子は内心首を傾げた。
「リコの存在が無かったからな」
甘さを含んだ蕩けた優しい声で、シルヴァリスは微笑んだ。
「うえっ?」
理子の全身は茹で蛸のように真っ赤になる。
口の中に何も入れていなくてよかった。入っていたら、噎せるか吐き出していた。
(ど、どうしよう)
やはり、人の姿へと変化したせいで、魔王の中身が別人へと変化してしまったのではないのか。
何か裏があるのではないか。と、警戒していたのに、警戒心が崩れていく。
(うぎゃー! どうしよう、これが計算じゃなかったら、明日の朝まで耐えられないかもしれない)
観光をしたいだなんて我が儘を言わず、城へ戻った方が良かったのかも……知れない。
長い夜は始まったばかり。