くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
 理子の態度から逃げる気は無いと分かったのか、漸くシルヴァリスは顎を掴んでいた指を外す。
 チャンスとばかりに、理子は少しだけ横へ体をずらして彼から拳一つ分程の隙間を空ける事に成功した。

「ねえ、私がテオドールさん達に会ったのは、偶然じゃないでしょ?」

 密着状態から解放された理子は、ずっと疑問に思っていたことをシルヴァリスに問う。

「何の事だ?」

 わざとらしく言うシルヴァリスは口の端を上げる。

「偶然にしては出来すぎているもの」

 水鏡の反応がおかしかった時点で違和感はあったのだ。
 出奔していた王子が滞在する街へ跳ばされ、酔っ払いに絡まれたのを助けてくれたのが王子の仲間だなんて、偶然にしては出来過ぎている。
 一晩召喚に応じなかっただけで、他の男性と手を繋いで髪に触れただだけで不機嫌になった魔王が、一人寝を寂しがるこの男が一日半も理子を自由にした。
 その理由は何なのか。

「だから、私の我が儘を叶えてくれたの?」

 王様の仕事は忙しいのに我が儘に付き合ってくれているのは、恐い目に遭わせた罪滅ぼし……とは考えられないから、理子を一人で行動させないようにか。それとも、シルヴァリスも二人で出掛けたかったのどちらか。

「だとしたら、どうする?」

 たとえ裏があったとしても、我が儘を叶えてくれたのは嬉しい。
 ファンタジーな世界を少しだけ冒険出来て、テオドール達と知り合えたのも貴重な体験になった。
 きっと、今夜の事も理子にとって忘れられない出来事になると思う。

「どうもしないよ。異世界の住人である私には、彼等に何も出来なかったのだもの。結果的に、貴方が彼等を助けてこれからの関わりを結ぶ事になって、上手くいったんでしょう? ただ、ドラゴンゾンビは怖かった」

 思い出してしまい、理子は両腕を抱き締めて身震いする。
 襲われたのが人外の、ドラゴンゾンビで良かった。人形のアンデットだったら、かなりトラウマになっていただろうから。

「まだ、何か企んでるの?」
「さてな」

 色彩は人に合わせているシルヴァリスは、魔王の顔で至極愉しそうに笑った。
 でも、まあいいかと思う。企んでいたとしても、理子には到底考え付かない事だろうから。

「企んでいたとしても、この世界でいっぱい綺麗な景色を見られたから、向こうでは絶対に出来ない刺激的な体験も海外旅行みたいな観光も出来たし……許せるかな」
「リコ」

 一人で納得している理子の二の腕を掴んで、シルヴァリスは自身の方へと引き寄せる。

 ぽすっ
 呆気なく、横にずれて空けた隙間を無くされ横向きで倒れた理子は、体を反転させられてシルヴァリスの胸に顔を埋める形で受け止められた。
 上半身はシルヴァリスの胸に頬を寄せて、下半身は横抱きで彼の膝へと座らされる。

「リコ、もう黙れ」

 静かな口調で、抗えない命令を下された理子は口をつぐんだ。

 どんな表情をしているのか気になって見上げれば、何時もの赤と違う穏やかな橙色の瞳にぶつかり、魅入られたように動けなくなる。
 固まる理子に、シルヴァリスは艶やかな笑みを見せると、そっと口付けを落とした。

 何度も啄むように口付けされて、理子はくすぐったさにシルヴァリスのガウンの胸元を掴む。
 甘噛みされる唇に気をとられていると、理子の太股を大きな手のひらが這うように触れた。

「っ!?」

 ガウン越しではなく、肌に直接触れられて理子はビクッと体を揺らす。

「どこだ?」

 体を固くする理子の耳元へ唇を近付けて、シルヴァリスは低く甘い声で囁く。

「どこを、あの戦士に触れられた?」

 戦士とは、酔っ払いから助けてくれたウォルトの事か。
 どこと問われてもおんぶされただけだ。それだけで嫉妬される意味が分からない。

 ガウンの裾から侵入した手は、するりと理子の尻の丸みを一撫でする。
 ビクリッ、直に尻を触られて、理子は大きく体を揺らした。

「きゃあっ! ちょっと、だめだって!?」

 触られた事と、下着を履いて無い事を知られてしまったという羞恥から、体中の体温が上がる。

 触られた事と、下着を履いて無い事を知られてしまったという羞恥から、体中の体温が上がっていく。
 シルヴァリスの胸に手を当てて、どうにか距離を空けようとする理子の背に回した腕の力を強め、さらに抱き寄せた。

「何が、駄目だと? 下着を身に付けて無いとは、俺に抱かれる準備は出来ているようだな」

 耳に唇を当てて色気のある声色で言われてしまい、理子は「ぎゃっ」と呻く。
 準備出来ているとかではなくて、替えのパンツが無かっただけだ。

「じゅ、準備とかじゃなくて! 替えが、きゃあっ撫でないで! それと、ウォルトさんは腰が抜けた私を助けてくれただけで、疚しいことはなにもっんっ」

 黙れとばかりに唇に噛み付かれて、理子はそれ以上の台詞を続けられなかった。

「お前に、俺以外の者が触れるのは……許さぬ」
「そ、そんなに独占欲と支配欲丸出しにされたら、私は生活しにくくなっちゃう」

 シルヴァリスから放たれる圧力が怖くて、理子の声は尻窄みになる。
 抱き締めてくるシルヴァリスの胸に手を当てて、どうにか距離を空けようとする理子の背に回した彼は、腕の力を強めてさらに強く抱き締めた。

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