くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
「シルヴァリス、んっ」

 大丈夫かと見上げていた理子を、シルヴァリスは押し倒す勢いで抱き締める。
 驚く間も与えてくれずに、シルヴァリスはそのまま理子の唇を甘噛みした。

 角度を変えて何度も落とされる口付けに、理子は息苦しくなって僅かに唇を開く。

「んっ」

 唇の隙間からスルリ、と熱い舌が入り込む。

(んむー!? 死ぬー!!)

 焦る理子を無視して、シルヴァリスの熱い舌先は歯列をなぞり、奥へ逃げようとした舌を絡めとると軽く吸い上げた。

 執拗な舌技に、翻弄されつつ徐々に応じていく。
 頭の中が蕩けるような感覚。
 キスだけでこんなに気持ちが良くなるだなんて、知らなかった。
 貪るように舌を吸われて、理子の思考に霞がかかっていく。

「はっ……」

 理子の体から力が抜けきったのを見計らい、シルヴァリスが唇を離す。
 名残惜しそうに、舌と舌を繋いでいた唾液の糸が切れて、口の端に垂れた。

 強烈な口付けで腰砕けになってしまった理子は、ぐったりとシルヴァリスの胸にもたれ掛かる。
 困った事に蕩けきった思考は、これで終わるのは嫌だと、貪欲に物足りなさを訴えるのだ。

「やめないで」

 潤んだ瞳で、理子はシルヴァリスのガウンを掴み見上げる。

「もっと、して?」

 普段の思考だったら絶対に言わない“おねだり”に、シルヴァリスは愉悦の笑みを深くする。

 自らこれ以上を望めば、もう逃げられないのは分かっていた。
 それでも、今の理子は彼が欲しくて堪らないのだ。

「望みを叶えよう」

 耳元で低く甘く囁くと、シルヴァリスは理子を横抱きにして寝室へと歩き出す。
体も思考も蕩けきった理子を横抱きにして寝室へと向かう間も、シルヴァリスは彼女の額や頬へ口付けを落とす。
 まるで壊れ物を扱うように、そっとベッドへ下ろして頬にかかる髪を指で払う。

「あっ……」

 ベッドへ下ろされた理子の姿は、バスローブの胸元ははだけてしまいかろうじて頂が隠れており、裾は捲り上がり太股が露になっていた。剥き出しに足に滑らかなシーツの感触が生々しく伝わる。

  ギシリ……
 乱れたバスローブを直す事も出来ないまま、覆い被さってくるシルヴァリスに見下ろされ、理子は恥ずかしくて顔を逸らしてしまった。

「どうした?」

 耳許で聞こえた声に視線だけ動かして、後悔する。
 すぐ傍に、恐ろしいくらい綺麗な魔王の顏があったのだ。
 片肘をベッドに突いて、手を伸ばせばすぐに理子を抱き締められるくらい近い距離で、彼は見惚れてしまうくらい綺麗な笑みを浮かべていた。

「あ、あんまり、見ないで、恥ずかしい、から」

 こんなにも綺麗な魔王に組敷かれているのが、可もなく不可もないといった平凡な自分だなんて恥ずかしくなってきて、羞恥と緊張から顔に熱が集中する。
 人に紛れるようにと、シルヴァリスは髪色と瞳の色を変えていたのに、気が付けば元の燐光を放つ銀髪と血のように赤い瞳に戻っている。そのせいで尚更恥ずかしくなってきて理子は両手で胸元を隠した。

「リコ、隠すな」

 シルヴァリスの長い指が伸びて、やんわりと胸元を隠す腕を外す。

「だって……じゃあ、目を瞑って?」

 外された手をシルヴァリスの視界を覆うように広げる。今の理子の顔は、羞恥心から茹で蛸みたいに真っ赤だろう。

「っ! 煽るな、リコッ」
「きゃあっ」

 いつもの冷静な動きではない、余裕を無くした性急な動きでシルヴァリスは理子の手を掴み、噛み付くように唇を重ねた。
 シュルリ
 音を立ててシルヴァリスは、片手で羽織っていたバスローブの腰紐をほどく。


 全ては魔王様の手のひらの上だったとしても、平凡なOLだった山田理子は、この夜、魔王の倒錯した愛を手に入れたのである。
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