n回目の告白【短編】
一度目の告白は失敗した。
中学校卒業、彼女はセーラー服をなびかせて桜の木の下で先生と卒業写真を撮っていた。クラスの中でも大人しい彼女だったと思う。派手ではないし、前に出すぎるタイプでもない。自己主張より流されるほうが得意なタイプは、もし、なにか意見するときそれはもう目の中に情熱的な意思を持って言葉にするのだ。
そのときたま見せる主張の強さが好きだった。肩につくくらいの黒髪はたばねてあって、模範生より崩した制服の着方はなにかに紛れるような迷彩服のようにも思えた。桜は五分咲きくらいであるが、卒業式にふさわしい心地よい快晴だった。肌にあたる柔らかな温かささえも、卒業を祝福してくれているようだった。
ここで告白して、同じ高校でカップルになりたい。
幸い受けた高校は同じで、はやしたてるクラスメイトは別の高校だった。
担任との写真撮影が終わり、ちらりとこちらを見た。そして手を振られ、彼女は予想外なことにこちらに寄ってきた。
「高校も同じだね、森君」
ふふ、と柔らかに微笑まれて内心見透かされているんじゃないかとドキドキした。
「そうだな。結構楽しみなんだよな。全く今と違うから」
俺達が行くのは県下随一のスポーツ学校だった。俺は野球で、彼女は硬式テニス。
「今よりお互い練習がハードになりそうだよね、この後クラスの打ち上げ行くの?」
お決まりの、ファミレスで最後のクラス会だ。
「もちろん、それまでどうすんの白石は」
彼女はためらって、頬を赤らめた。その表情は今まで見てきたものでないもので。
期待していいのか、でも、一抹の不安を感じる。心臓付近だけ血流がジェットコースターのように、加速している。
きょろきょろと周りを見渡して、内緒ねと前置きした。
「今から先生に告白しに行くの」
告白を彼女はやり遂げるだろうと、彼女の瞳がそう語っていた。
ときたま見せる意志の持った俺が惚れた原因のーーーー。
「そ、そうか」
「そうなの。意外でしょう」
「それはもう」
息が詰まったように、絞り出した声はきっと相手に驚いたからとカモフラージュできたに違いない。そうであってほしい。
振られる前提の告白なんてまっぴらごめんだ。
「高校からもよろしくね、森君。相談とかこれからものってね」
軽やかに翻す彼女は、戦士のように思えた。俺と違って、戦いに挑み潔く結果を手にする彼女が眩しい。先生が告白を断ろうが、ましてや受け入れるかはどうでもよかった。俺は告白は失敗に終わった。記録も出さず。不戦敗、これがどれほどかっこわるいのか俺は知っている。次の卒業までに、絶対に、俺は告白を。
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