リフレインが聴こえない
 そう思ったとき、流れていた曲が終わった。
 ああ、フライミートゥーザムーン、もう少し聴いていたかったな。

 わたしは、食べ終わったお弁当箱を包む。
 すると、スピーカーから続けて声が流れた。

『いまかけた曲、フライミートゥーザムーンは、いろいろなアレンジバージョンがあり、広く知られているのは、このボサノヴァ調。フランク・シナトラで爆発的ヒットとなり……』

 大神くんの担当日だから、いましゃべっているのも彼だろう。

 いつもの無機質で冷たい感じの声じゃなくて、スピーカーから流れる大神くんの声は、意外にも温かみがあった。
 そして言葉も、ていねいに綴られている。

 それくらい、音楽が好きなんだなあと思いながら聞いていた、そのとき。
 わたしの全身に一瞬――ぶわっと鳥肌が立った。


 ――なんだろう? この感じ。

 わたし。
 すごく大切なことを。
 重要なことを。


 見過ごしているような気がする……。


 でも。
 それが一体なんなのか、まったくわからなかった。
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