極上の愛に囚われて

 もっとやきもちを焼くようなこと、言えば良かった。彼の気持ちが私にあるって確認すれば良かった。自分の駆け引きの下手さが歯がゆい。

 それに〝いつだって沙雪のことを見ている〟なんて、残酷な言葉だ。家に帰れば奥さんを見つめるくせに。

 胸の中に粘つくような嫉妬の泥が渦を巻いてる。今の私はすごく醜い。

 彼が腕時計をちらっと見ている。きっと帰宅時間を気にしているのだ。

 彼の背後に、見たこともない奥さんの影がちらつく。

 どんな人なのか、彼からはひとことも教えてもらっていない。それどころか、奥さんがいることを話してもらっていない。

 ほんとにひどい人。

 ひどいのに、毒花だと分かっているのに、やさしく甘やかな香りに捕らわれて逃げられない。

 こんなときは困らせるようなこと言って、彼を私のものだと、彼にとって特別な存在であると確かめたくなる。

「もう帰るの?」
「明日は早朝から接待ゴルフがあるんだ。沙雪も今日は疲れただろう。送って行こう」

 もっと一緒にいたい、帰りたくないと言ったら、彼はどうするだろう。叶えてくれるだろうか。
< 19 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop