極上の愛に囚われて
もっとやきもちを焼くようなこと、言えば良かった。彼の気持ちが私にあるって確認すれば良かった。自分の駆け引きの下手さが歯がゆい。
それに〝いつだって沙雪のことを見ている〟なんて、残酷な言葉だ。家に帰れば奥さんを見つめるくせに。
胸の中に粘つくような嫉妬の泥が渦を巻いてる。今の私はすごく醜い。
彼が腕時計をちらっと見ている。きっと帰宅時間を気にしているのだ。
彼の背後に、見たこともない奥さんの影がちらつく。
どんな人なのか、彼からはひとことも教えてもらっていない。それどころか、奥さんがいることを話してもらっていない。
ほんとにひどい人。
ひどいのに、毒花だと分かっているのに、やさしく甘やかな香りに捕らわれて逃げられない。
こんなときは困らせるようなこと言って、彼を私のものだと、彼にとって特別な存在であると確かめたくなる。
「もう帰るの?」
「明日は早朝から接待ゴルフがあるんだ。沙雪も今日は疲れただろう。送って行こう」
もっと一緒にいたい、帰りたくないと言ったら、彼はどうするだろう。叶えてくれるだろうか。