極上の愛に囚われて

『ゴメン、驚いただろう。沙雪に言わなかったのは、きみにだけは、僕自身を見てほしかったからだよ』

 翔さんには小栗翔という名前の上に、小栗ホールディングスという看板がついてしまう。

 幼いころからずっと、どこに行っても彼個人ではなく、小栗ホールディングスの者としての対応を受けてしまう。

 生まれた時からそうなので慣れているとはいえ、自分自身が企業になっているような、空虚な気持ちを抱えている。

『誰も、僕個人をみてくれないんだ』

 だから私には小栗ホールディングスの御曹司としてではなく、ひとりの男性として見てほしかったと、彼は話してくれた。

 高級なレストランでのVIPな対応で彼が見せるクールな表情は、空虚な気持ちの表れだったと知った。

『沙雪はどう? 御曹司だと知って、僕への気持ちが変わった?』

 少し不安そうな表情で聞いてくる彼に、私は大きく首を振ってみせた。この時はまだ恋沼に片足を突っ込んだ程度だった。

『全然、だって、翔さんは翔さんだもの。ただ、私なんかと会っててもいいのかな、なんて思っちゃう』

 変な噂とか立ったりして、会えなくなるのは辛い。
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