極上の愛に囚われて

 彼が既婚者だと知ったのは、地元作家の展示会での出来事だった。

 ギャラリーには地元作家の絵画や彫刻などのアート作品に加えて、生け花やフラワーアレンジメントなども展示されている。

 様々な色の作品を多くの方に知っていただくのが、このイベントの目的だ。

 初日には多くの来場者があり、地元作家も自分の作品のアピールに熱を入れている。私と打ち合わせを繰り返した地元作家の代表も、来場者と熱心な話をしている様子が見られ、成功を予感してホッとしていた。

 人でにぎわう中で、フラワーアレンジメントを出展した作家の言葉が妙に大きく聞こえて来たのだった。

『……そうなんです。あなたもご存知かしら。小栗ホールディングスの御曹司さんが結婚なされたこと。その花嫁さまのブーケを私が作りましたの。それと同じものが、こちらなんですよ』

 え……、うそ……。聞き間違い……?

 御曹司って翔さんのこと? 結婚って、ほんとなの?

 小栗ホールディングスの御曹司といっても彼だけではない、と思う。というか、そう思いたい。
< 29 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop