極上の愛に囚われて
冗談ぽく言って笑う社長に「はい、すみません」と苦笑いを返す。ほんとうは十分以上前に着いていたけれど、煌びやかな面々に見惚れ……いや怖気づいて入口で呆けていたなんて言えない。
上手中央では小栗ホールディングスの代表取締役がスポットライトを浴びており、開会のあいさつを始めていた。巨大グループを纏めているだけあって、風貌だけでなく声にも威厳がある。
「ね、沙雪。あそこにいるの、小栗ホールディングスの御曹司じゃない!?」
安奈が頬を紅潮させている。
「そうかな?」
私は首を傾げてみせた。
三つ揃えのスーツを着た背の高い男性が、代表取締役の斜め後ろに控えている。姿勢よく上品な立姿は、陰にいても目を引く華やかさがある。
『それでは、乾杯の音頭を小栗ホールディングスの専務、小栗翔さまにお願いいたします』
件の男性にライトが当たるのを見て、安奈が「やっぱり、そうだよ」と言って目を輝かせた。
『みなさま、グラスをお持ちください』
小栗さんは若くスマートな体型をしている。清潔感のある短めの髪。高い鼻梁に涼し気な目。少し薄めな唇は微笑んでいてもクールな印象を受ける。