死んだはずの遠藤くんが教室に居る話
1
ケチなのかエコなのかわからないけどクーラーの温度設定が狂っていて、5時間目の授業はみんなダラダラぐったりしていた。
僕は一番後ろの席で数式も解かず、シャーペンを細かく動かしながら、授業ではなくみんなの様子を後ろから観察する。
それはいつもの光景で、手紙を回すもの、寝ているもの、女子同士の甘いクスクス笑い、真面目に授業を受けるもの……なんの代わり映えもない光景であり、ひとり欠けたとは思えない日常がそこにあった。
僕はノート一面に広がる幾何学模様のページを閉じて、ふと窓の外を見る。
もう少しで夏休み
夏休みまで
遠藤くんは待てなかったのだろうか。
青い空にさっきより大きな積乱雲が広がってきて、ほこりの溜まった窓枠からはみ出る勢いだ。部活終わり、大雨に濡れて帰る自分の姿を想像しため息をついてしまう。
「うっちー。メントスちょうだい」
坂井の小さくざらついた声が聞こえてきたので、僕は机からメントスを取り出し、右隣の天井めがけて放り投げた。坂井はこんな近距離で僕が高く飛ばすと思ってなく、慌てて椅子から大きな身体を浮き上がらせ、無事キャッチして僕を渋い顔で見る。
僕が忍び笑いをしていると、坂井は小さな銀色のケースから白い粒を全部取り出し、そのまま全部口に入れると、あまりの超クール味に涙目になっていた。僕は声を出さずに笑って反対側の席を見る。
窓際にある一番後ろの特等席。
そこにはもう誰も座っていない。
みんな早く机を片づけて無かった事にしたいけど、担任がそれを許さなかった。
『遠藤を忘れるな。みんなの仲間だ。クラスの仲間なんだ!』
涙と鼻水をぐっちゃにしてたので、感動より汚さが先に目に付いた。20代後半の熱血教師はいじめ問題を持ち出さず、遠藤くんの不慮の悲しい事故を大いなる悲劇として僕らに語るので、担任と僕たちの温度差は広がるばかりだ。
机の上には油性マジックで書かれたくだらない悪口があった。
『仲間なら机を綺麗にしろ!』
そんな言葉に【お前がやれ】と、みんな心の中でつぶやいた。
撤収しない遠藤くんの机がそこにあればあるほど逆効果で、僕たちの反省は遠のいてしまうことに大人は気が付かない。
僕は一番後ろの席で数式も解かず、シャーペンを細かく動かしながら、授業ではなくみんなの様子を後ろから観察する。
それはいつもの光景で、手紙を回すもの、寝ているもの、女子同士の甘いクスクス笑い、真面目に授業を受けるもの……なんの代わり映えもない光景であり、ひとり欠けたとは思えない日常がそこにあった。
僕はノート一面に広がる幾何学模様のページを閉じて、ふと窓の外を見る。
もう少しで夏休み
夏休みまで
遠藤くんは待てなかったのだろうか。
青い空にさっきより大きな積乱雲が広がってきて、ほこりの溜まった窓枠からはみ出る勢いだ。部活終わり、大雨に濡れて帰る自分の姿を想像しため息をついてしまう。
「うっちー。メントスちょうだい」
坂井の小さくざらついた声が聞こえてきたので、僕は机からメントスを取り出し、右隣の天井めがけて放り投げた。坂井はこんな近距離で僕が高く飛ばすと思ってなく、慌てて椅子から大きな身体を浮き上がらせ、無事キャッチして僕を渋い顔で見る。
僕が忍び笑いをしていると、坂井は小さな銀色のケースから白い粒を全部取り出し、そのまま全部口に入れると、あまりの超クール味に涙目になっていた。僕は声を出さずに笑って反対側の席を見る。
窓際にある一番後ろの特等席。
そこにはもう誰も座っていない。
みんな早く机を片づけて無かった事にしたいけど、担任がそれを許さなかった。
『遠藤を忘れるな。みんなの仲間だ。クラスの仲間なんだ!』
涙と鼻水をぐっちゃにしてたので、感動より汚さが先に目に付いた。20代後半の熱血教師はいじめ問題を持ち出さず、遠藤くんの不慮の悲しい事故を大いなる悲劇として僕らに語るので、担任と僕たちの温度差は広がるばかりだ。
机の上には油性マジックで書かれたくだらない悪口があった。
『仲間なら机を綺麗にしろ!』
そんな言葉に【お前がやれ】と、みんな心の中でつぶやいた。
撤収しない遠藤くんの机がそこにあればあるほど逆効果で、僕たちの反省は遠のいてしまうことに大人は気が付かない。
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