死んだはずの遠藤くんが教室に居る話
 互いのポケットからLINEの着信音が止まない。クラスのグループLINEがにぎわっているんだろう。

「どうなっちゃうんだろうね」

「うん」

 過去問にもない
 対処できない問題だ。

 ふたりで歩いていると、近くの私立高校の制服を着た女子たちが笑いながら僕たちとすれ違う。僕と北沢は何となくコソコソと下を向いて歩いていると

「うっちー」って、浮かれた声をかけられた。

「うわ偶然。元気だった?えっ?彼女?」
「うっちーの彼女さんだー可愛い!!」
 ブランド物の制服を多少気崩しながら僕たちに声をかけたのは、うっすらメイクの中学時代の同級生だった。

「いや違う違う。ただの部活仲間」
「えーっ照れてるー!」
「いいなぁ幸せそう」
 慌てて否定する僕の言葉を完全無視し、冷やかし続けている彼女たちに

「同じクラスで吹奏楽部です。それだけです」
 壁を作ったようによそよそしく、先生に求められた答えを言うように堂々と北沢がそう言うと、迫力に負けたのか彼女たちは「そうなんだー」って渋々と納得してくれた。

 『それだけです』
 たしかに間違いなくそれだけだけど、さっきまでの浮かれていた気持ちが地面に落ちた気分だった。

 間違ってはいない。
 うん。そうです。おっしゃる通りです。
 でも少し悲しいのはなぜだろう。

「吹奏楽まだやってるんだ。アルトサックス続けてるの?」
 続けている楽器名が違うと気づき、北沢は「えっ?」って言葉にして僕を見る。
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