死んだはずの遠藤くんが教室に居る話
「あっちの方が合宿とか演奏会とか力入れてるし、講師もプロが来てくれるんだってね。内田くんはあっち行こうと思わなかったの?」
 ストレートに聞かれて黙ってしまった。

「北沢こそ賢いから、あっちの方がよかったんじゃね?」
 制服もきっと似合う。さっき会った誰よりもきっと似合うだろう。

「そうだねー」
 苦笑いで返事してから、しばらくの沈黙があり、悪い事聞いたかなって思って別の話題を出そうとすると

「うち。シングルマザーだから」
 そう言って北沢は自虐的にえへへと笑った。

「色々と事情があるのさ。みんなにもあると思う」
 そういえば大岸くんもシングルマザーって聞いたことがある。矢口はただ単純にこっちの方が面白そうだったからと言ってたし、坂井は柔道の学校推薦でお金がかからないとストレートに前に話してくれた。
 
 みんなが話してくれるけど、僕は自分の理由を言えなかった。両親は私立でもいいって言ってくれたけど、僕はこっちの学校を選んだ。

「遠藤くんも、色々あるんだよね」
 北沢はポツリとそう言い。僕は素直にうなずいた。

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