死んだはずの遠藤くんが教室に居る話
 母親に「ご飯だよー」と言われるまで熟睡していた。

 生きてた。

 目をこすりながら、部屋のよどんだ空気を入れ替える為に窓を開ける。
 夕立後の雨の匂いを感じながら階下に降りると、定時に帰ってきた役所勤めの父親が食卓について食事をしていた。

「顔むくんでるぞ」
 父親にそう言って笑われた。

「短時間で寝まくった」
 隣に座ると母親が席を立って夕食を用意する。

「あれから情報も入ってきて、お父さんに話を聞いてもらってたの」
 興奮しながら母親が言うけど、拡散中の母親LINEの話に興味はなかった。
 これは現実に経験した、僕たちにしかわからない。

「ひどいと思う」
 小学生のような母親の意見にぷっと吹き出すと、にらまれた。

「恨んで殺すってどう思うお父さん?」
 僕が話にのらないので、怒りの矛先を父親に向ける。殺すとは言われてないんだけどね。
「どう思うって、相手は幽霊だし」
「自分の息子が殺されるかもしれないのよ!そんなんでどーするの!」
 ヒートアップしてきたー。たまにあるんだよな。

「明日カウンセラーが動いて、保護者会があるからそれに俺が出るよ」
「そんなのあるの?」驚いて僕が聞くと「ある!」と、母親は断言した。
 自信満々なその答えは、背中に後光を背負っているようにきらめいていた。
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