死んだはずの遠藤くんが教室に居る話
朝から両親に心配されていたけれど、兄からもらったお守りが嬉しくてテンションが上がってしまい、気にならずに普通に朝食を食べて普通に『行ってきます』と玄関を出たら、母親が追いかけてきた。
「何?弁当持ったよ。箸忘れた?」
「違うって、本当に大丈夫なの?」
「何が?」
「何が……って」
困った顔の母親をジッとみる。
大丈夫って何が?僕の精神的にってやつ?学級崩壊してるかとか?学校行ったら遠藤くんに殺されるとか?それとも集団催眠にやっぱりかかっているとか?
疑問符がいっぱいあるけど、何に対して大丈夫かって言いたいの?
僕がそんな気持ちで見てると母は
「色々!」って一言いい放つ。
「色々って、母さんそれズルい!」めちゃくちゃズルい言い方で完敗するしかないだろう。
「色々心配だから」小さな声が切なく聞こえてしまう。僕はうーんと困りながら昨日の兄の話をした。
「兄ちゃんに昨日さ、遠藤くんの話をしたんだよね。ドア越しだけど教室であった不思議な話を直接聞いてほしいって言ったら、今朝【わかった】って返事をもらったんだ」
急に兄の話をする僕に、母親は驚いていた。
「顔を合わせて直接話をする約束をしたから、僕は今日は生きて帰るから大丈夫」
「本当に?そうなの?直接会って話す約束したの?」
声が裏返って驚いてるけど、その驚きの中に喜ぶ顔が見えた。僕もつられて笑顔でうなずいた。
「それって、えっ?本当に?それ、お母さんも立ち合っていい?立ち合いたい!変な事言わないから。発言しないから!」
その約束はむずかしい。
その場にいたら変な発言するに、来月分のこづかい賭けてもいい。それは避けたい。
「うーん。まだハードル高いと思うから無理だと思う」
はっきり返事すると肩を落としたけれど、兄が家族と顔を合わせて会話するのは、我が家ではお祝いしたいくらいの大ニュースだから、母は笑顔で送り出してくれた。
僕はワイシャツの胸ポケットに入れたお守りを、ポケットの上から軽く触る。
最強じゃん。
生きて帰ってくるとは言ったけど
今日という日がどうなるかわからないけど
復讐されて死ぬかもしれないけれど
僕は学校へ向かった。