死んだはずの遠藤くんが教室に居る話
 遠藤くんは高校入学と共にこの街に転校してきたので、誰も遠藤くんのことを知らなかった。

 ほんの数ヵ月の記憶だったけど、背が低くて声が高め。帰宅部。色白で運動音痴、学力普通で目立たず大人しく普通の男子だったと思う。
 僕だって似たようなもので、ごくごく普通だったけど、これも普通の友達がいたから普通に過ごしていた。

 普通普通って言うけど、普通ってなんだろう。

 そんな普通の遠藤くんが、何がきっかけかわからないけどクラスの調子にのってる系の奴らに目を付けられて、とんでもない目に色々と合わされていた。

 あっ、いじられてる?
 ん?いじめられてる?
 えっ?奴隷?

 学校の購買に走るのはまだいい方で、走って10分のコンビニに汗だくになって走っていた。トイレで水をかけられていたこともあるし、授業直前に上靴を取られて窓から捨てられたこともある。

 一番覚えているのは、僕らの罪の話。
 お昼近くの英語の授業の時間。どこからかメモが回ってきた。
 【至急回覧。教室の時計の11時55分ジャスト。遠藤にゴミをぶつけろ】
 変な高揚感が教室にあふれていた。
 周りを見れば消しゴムを半分にちぎったり、ノートの端を丸めている奴もいた。僕もその流れにのって、古くなった蛍光ペンのキャップをためらいながら手にする。
 そして11時55分ジャスト。秒針が頂点を極めた瞬間『せーのっ!』と、誰かが声を出し、僕たちは何も考えず手にした小さな不用品を宙に飛ばして遠藤くんの席に悪意の雨を降らせた。

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