死んだはずの遠藤くんが教室に居る話
 誰もプリントなんてやらずに
 遠巻きに遠藤くんにアンテナを張りながら雑談を始めていた。

 怖いけど
 誰も信じてくれないし
 どうすることもできないし。

 このまま
 どうなるんだろうって空気に包まれている。

 僕は横目で遠藤くんを見ると、遠藤くんはきちんと背筋を伸ばした正しい姿勢でプリントをじっと見ていた。線が細いってよくノベルの描写に書いているけど、こんな感じなのかなって思ってしまう。姿かたちは普通に遠藤くんなんだけど、儚い感じで……まぁそれが幽霊なのだろうと自分で納得してしまう。
 あと、カバンは持ってきてないんだなって、変な事も思ってしまう。

「これ」
 僕はペンケースから使ってないシャーペンを遠藤くんの机の隅に置いた。
 遠藤くんは「ありがとう」って小さな声を出す。

「予備のあるからあげる」
 北沢が後ろの気配を感じて、消しゴムを遠藤くんの机にのせると続けて大岸くんが「見なくてわかるから」って、細かくポイントを書き込んである自分の英語の教科書を無造作に渡した。

『見なくてもわかるから』
 かっこいい……僕には一生言えないセリフだ。

「俺、なんにも持ってない」
 みんなの様子を見て、なぜか坂井が半泣きになっていた。

「柔道の基本なら教えるから」
 僕の背中を通り過ぎて遠藤くんにやっと届く声で言うと、やっぱり遠藤くんは「ありがとう」って言葉を出した。

「坂井くんて可愛い」
 北沢がそう言うと「またバカにする」と、涙目で言うので僕と大岸くんは笑い、矢口はしっかりとそれを撮影していた。
< 34 / 58 >

この作品をシェア

pagetop