死んだはずの遠藤くんが教室に居る話
 40分ほどのカウンセラーの話が終わってから、後ろの先生たちが扉から出て行った。
 熱く語ってくれたけど、誰の心にも響かなかった。
 
 違うんだよなー。
 だって最初から遠藤くんの存在は幻で、そこにはいない設定で話を進めているから、僕たちの耳は聞こえなくなる。一番熱心に聞いていたのが遠藤くんと後ろの先生たちだから、もうこれは終了です。とりあえず後ろがいなくなり、僕はプチ参観日が終わってホッとする。

「これから出席番号順でグループカウンセリングを行う。呼ばれた生徒は……」
 担任が指示を出そうとした瞬間

「あきひろ!!!」
 廊下に遠藤くんの名前が響き渡った。

「あきひろ!あっくん!!晃弘!!!」
 髪を振り乱して女の人が教室に入って来た。

 遠藤くんのお母さんだった。

 教室をキョロキョロ見ながら、僕の隣に空いてる机を見つけて駆け寄って机に抱き着き泣き叫んでいた。
 遠藤くんはただうつむいているだけだった。

「晃弘……ここにいるの?人から聞いたよ、晃弘が幽霊になって教室に来て座ってるって。いるの?ここに座っているの?」
 涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、細い身体でしっかり机をつかんで僕たちに聞くから、僕たちはうなずく。

「晃弘どこ?姿を見せて!」
 遠藤くんのお母さんは絶対離れないと余計に机にしがみつき、大きな声で泣き叫んでいた。

「遠藤さん……あの……」
 担任が遠慮がちに近づき、手を貸そうとするけれど遠藤くんのお母さんは乱暴に振り払った。

「遠藤は僕の大切な教え子です。たった数ヵ月ですが僕と遠藤は信頼関係で結ばれてました。きっと今頃天国でお母さんと、僕たちクラス一同を見守ってくれていると思います」
 芝居がかったわざとらしい担任の言葉に、僕たちは呆れて何も言えなくなる。

「お母さん。私は……あっ?……やめろーーーー!!」
 担任は急に頭を抱えてその場でグルグル回転する。自分の尻尾を追いかける犬のように回りながら、後ろの掃除用具が入ってる細いロッカーに体当たりでぶつかりやっと動きが止まった。
 吐きそうな顔で顔を覆い、やっと静かになってくれた。

 遠藤くんの超音波を浴びたんだ。
 よっぽど偽善的な担任の言葉が鼻について嫌だったんだろう。
 気の毒だけどこの流れは仕方ない。

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