死んだはずの遠藤くんが教室に居る話
 
 泣き声しか聞こえない教室に鋭い声が遠くから聞こえてきた。

「晃弘!どこだ出てこいや!!」
 どっかのプロレスラーのようにドスの効いた重い声が届き、泣いてる女子の目が開く。

「てめーいい加減にしろよ。このクソ弟がぁ!!」
 大きな声を出して教室に入って来たのは、駅前のスーパーのエプロンをかけて、真っ赤な髪をショートカットにしている細くて若い女性だった。遠藤くんのお姉さん?

「高校になっても中二病やってんのか!はぁあ?勝手に死んで幽霊になって教室に出てきた?ざっけんなよコラー!出るなら家に出ろや!」
 手にしていた大根を遠藤くんの机に投げつけると、遠藤くんは恐れたように机から離れ、大根の一部は綺麗に跳ねて担任の頭の上にヒットした。

 息を切らし、鬼のような顔をしてお姉さんは遠藤くんが逃げた机に向かって声を上げる。

「あんた、あの後どーなったか知ってる?救急車、パトカー葬儀屋、現場検証、そりゃもう大忙しさ。悲しむヒマないからね。ご近所さんの白い目。コソコソするしかないんだよ。引っ越したいけど、こんな事故起こしたら引っ越しもできないんだよ、マンションの価値も下がったぞ!事故物件マーク入ったぞこのバカ弟!家族がもっと気を付けていれば……って言われてる。てか、家族は思ったわ。そりゃ思うだろ、でも、もう遅かったんだよバカ!お母さんもお父さんも毎日泣いてるわ。私だって泣いてるわ。もっと優しくしてやりゃよかったって後悔してるわ!このボケカスの弟が!」

遠藤くんとは正反対の、めっちゃ迫力のあるキャラの濃いお姉さんだった。
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