死んだはずの遠藤くんが教室に居る話

「あの……」
 遠藤くんのお母さんとお姉さんが北沢を見上げると、北沢は深呼吸をしてから澄んだ声でふたりに言う。

「あの、私の父は3年前に亡くなりましたが、自分で……あの、自死しました」
 とんでもない告白に僕たちは驚いた。

「それで、私と母と兄は毎日心が苦しくて、残された自分たちがもう少し父を理解してあげればよかったって、後悔ばかりしてました。自分を責めてばかりでした。あの時ああすればよかった。こう言えばよかった。もっと……もっと……って」
 北沢は声を震わせながら一生懸命伝える。

「そしたらお坊さんが、『自死された方は心の悪性の病気なんだよ。良性の病気は何とかなる時もあるけれど、悪性の病気は周りの力ではどうにもならない。だから自分が何かできたかもと思わないで、自分を責めないでように』って言われて……関係ないかもしれないけれど、お母さんもお姉さんも自分を……その、責めないでください」
 我慢できなくなったのか、北沢は泣き始めてしまい、前の席の女子が北沢を抱き寄せてふたりで泣いていた。

 遠藤くんのお母さんは「ありがとう」って心を込めて北沢に言うから、北沢の涙はもっと流れることになる。

 笑顔の下にそんな過去があったなんて
 誰も知らなかった。

 そして
 次に口を開いたのは遅すぎる本人だ。

 やっと口を開いたかって言ってやりたい人物だった。


「本当の話を聞いてほしい」


 遠藤くんは話し始める。




< 40 / 58 >

この作品をシェア

pagetop