溺れる遺伝子
「名前は?」

「稲森ヒナ。」

「はは、上司と苗字が一緒だね。どうせウソの名前なんでしょ?」

「…本名だよ。」

「…ふーん」

スーツは調子が狂ったのか、会話をやめて勝手に歌い始めた。

時々マイクを向けて歌うか聞いてきたけれど首を横に振ればまた勝手に歌いだす。

ラクだった。

家に帰ればふかふかの布団もあたたかいごはんもあるけど、なんとなく落ち着かない。


…ツバサがいつ連れ出しに来るかわからないから…


その点、この狭いカラオケの椅子は寝にくくても心地よかった。
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