溺れる遺伝子
むしろ一番タチが悪いのはツバサかもしれなかった。


「ヒナ?どうした?顔に擦り傷あるけど…」

「あぁコレ…なんでもない」

「俺に言えないのか?」


ヒナには言えなかった。
ツバサに染められた髪、明けさせられたピアス、切られたスカートが原因だとは言える筈がなかった。

だからといって「言えない」とも言えない。
黙るしかなかった。


「ヒナぁ…また中学でも苦労してんのか?」

「…」

「俺を頼ってくれよ」

「…」

「あの、さっきから俺だけしゃべってるんですけど」


ツバサの声が急に低くなった。
ヒナは怖くなり、とっさに話した。


「上級生がっ!」

「上級生が?」

「校則守れって…」

「…」

「守らなかったらまた殴られる」

「…」

「学校行けなくなっちゃうよ…」

「……」

「…ツバサ…?」

「……」

「なんで何も言わないの?」


「…。そーかー俺がわるいんだなぁー」

「ちがっ…」


ヒナはまたとっさに否定した。
頭ではツバサのせいにしたいと思っているのに、
くちはツバサを怯えているのか、うそばかり言ってしまう。


「…ヒナはもっとジブンってのをもたなきゃダメなんだよ…」

「……はい。」

「うーん、ホントにわかってんのかなぁ」

「…わかりました」


ヒナは下を向いた。
また嘘を重ねた自分が嫌いになった。


「ばぁか!」

ツバサはいきなり叫ぶとヒナの頭をわしゃわしゃと撫でた。


「…ごめんな。」

「!」

「夏になったら海に行こう、な。」

「うん!」


ヒナは微笑んだ。ツバサの笑顔はやわらかかった。
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