溺れる遺伝子
「稲森さん、診察室二番に入ってください」

…全身が痛い…
下腹部がやけどでひりひりする中、翌朝病院へ向かった。
5か月で膨らみかかったおなかにも火傷は点々と跡を残した。

幸い、ツバサは妊娠に気づかなかったらしい。
…気付かないフリをしていたのかもしれないが…。


「椅子、あがりますからね。」

婦人科の診察台に乗るのは二回目だけれど、
足を広げて高くあげられるのは、初めてでなくても恥ずかしい。

「あら?やけどしたの?」

…聞かないでほしいことを聞かれた。

…それはツバサが…。

幸い、黙っていたらそれ以上何も聞いてはこなかった。


おなかの部分をさわられたと思ったら、急に上からさがっているモニターに映像が映し出された。


「わかる?うごいているわね?あなたのおなかのなかの命なのよ!!忘れないでね。」


…言われなくてもわかっている。
きっとこの大きい部分が頭で…ここが足で…

それがわかった瞬間から、涙がとまらなくなった。


自分がこれから自分の子供を殺す殺人犯になること。
殺してしまうということ。


「それでは手術の説明をするわね。」

涙が止まらぬうちに、話はどんどん進んでいった。

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