溺れる遺伝子
「それではこれから、人工妊娠中絶のビデオを見たいと思います。
かなり問題のある内容と言えば内容ですけれど、これが現実です。
つらくなったら伏せること。いいね。」


いつもならビデオの授業と聞いただけで生徒はみんなして喜ぶのに、今日だけは違った。


……。


「最初の一本は、人工妊娠中絶の方法です。」


いつにない静寂の中、ビデオは始まった。

最初は、文字のテロップが出て、ひたすらよみあげるものだった。

それはヒナが看護婦からうけた説明の内容とだいたい同じだった。


「それでは、手術の映像です」

無情な音声のあと、子宮の中のエコー動画が映し出された。



子宮でねむっているあかちゃんに何かが近付く。
…吸引機だ。

吸引機に気づいた赤ちゃんはもがいて逃げる…!!

しかしその抵抗はむなしく、やがて手足がもげて、吸引機にすいとられてゆく…。


クラスじゅうからすすり泣く声が聞こえた。
時には声をあげて泣く者もいた。


ビデオが終了すると先生は「これが現実なんです!!」と低い声で言った。
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