溺れる遺伝子
言葉を失った。

中絶の悲しみを知っているのは、そのとき近くにいた母親だった。

ヒナの知っている優しいだけの継父は、ろくろく働いてもいなかったのだった。

母は昼も夜も身を粉にして働いていたのだ。


それなのに、継父は都合が悪くなると、母とヒナの前から姿を消した。


…ひどい…


ヒナは手紙の返事を書こうとすぐに便箋を取り出したが、

…書けなかった。

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