溺れる遺伝子
「お父さん、ごはんできたよ。」

「おお、ありがとう、」


窓の外は、緑の森。

この静かな町で、ヒナは父親と二人で暮らしていた。

ヒナが少年院を退所したと同時に父親は喧騒な都会の家を売り、
ヒナのために自然の中に家を建てたのだった。


ヒナは結局夜間高校を卒業しないままの「高校中退」であったが、今が一番幸せだった。

春には花が咲き、夏には緑が燃え、秋には実り、冬は白く染まる。


ここには、ヒナが今まで見逃してきた大切なことが沢山あった。


「…お父さん」

「なんだい?」

「お父さん…お母さんに、手紙だしてもいい?」

「ああ…。」


ヒナはにっこり笑うと、あの時の便箋を取り出した。

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