溺れる遺伝子
ツバサは無言でヒナに手をふった。

ヒナはそれを片隅に見ながらカラオケボックスを飛び出した。


カッカッカッカッカッカッ


慣れないヒールで階段を駆け降りる。

転びそうで怖かったが今はそれより怖いことがある。


カラオケボックスを出ると蒸し暑さが体にまとわりついてくる。

ヒナはまだ走るのをやめなかった。


信号を待つ時間ももどかしい。

一体何でそんなに急いでるのかヒナ自身もわからなかった。

ツバサが追いかけてきてカラオケに連れ戻される
可能性なんてないのに…

わかっていながらもヒナはただひたすら走っていた。


走りながら、また涙がとまらなくなっていた。

どこかで聞いたことはあったけれど…
翼のおなかの下に、今までになかった硬い異物のようなものがあったのだ。

「ボッキ」

クラスメイトは面白半分に言っているが
いざ、自分の体に反応されたと思うと、すごく怖い。




家に着いた。
鍵はかかっていない。

ドアを開けると家の中が暗かった。
暗いのに母の寝室に人影がぼんやりみえる。
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