溺れる遺伝子
「女の子は10才ぐらいから、男の子は12才くらいから、体に変化がおこりってきます」


空回りで真っ白な頭のなかにぼんやりと昔習った保健の授業が出てきた。

あの時は神妙な顔で話を聞いていたがどこかで自分には関係ないと思っていた。


「女の子はだいたい小学生の高学年くらいに初潮が訪れます。
男の子はだいたい中学生なると精通が始まります。」


ヒナの頭は完全に当時に戻っていた。

いやな思い出が出てくる。


「おーい稲森!おまえの彼氏は中学生だろー?もうセイツウあんのかよ?」

「ぎゃははは」

「うわぁい恥ずかしがってやんの!」

「おいなんか言えよ!」


………。


「ヒナって実はもう…やっちゃってたりして!」

「えー!フケツー!」

「さすがだよねー」


聞こえよがしの悪口。
悔しいのにどうにもならないもどかしさが体に戻ってくる。

あの保健の授業のあと、ヒナは恰好のターゲットになったのだった。


「稲森のイは淫乱のイー!」

「ヒナのヒは卑猥のヒー!」


いつしかこんな言葉が流行りだし、誰かが叫ぶ度、クラスに冷ややかな大爆笑がおこった。


「ねぇねぇ淫乱ってなぁに?」

「っばか!デカイ声で言わないの!あのね、淫乱っていうのはね……」

「……!キャーー!!」



「クスクスクスクス」

「ヒソヒソヒソヒソ」

「…やぁだぁー」

「サイテー」

「こそこそこそこそ」
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