溺れる遺伝子
「ねぇ、ヒナ…もうアレはじまった?」


夢の中でヒナは小学生に戻っていた。


「…リカはもうはじまったの?」

「うん。昨日から…だから今日のプール出れないんだ」


プールの授業の度、いれかわりたちかわり元気そうな女の子でも誰かが必ず見学していた。

それを目にするたび、なんだか自分が何かのスタートラインに一人だけ取り残されたような不安な気持ちになった。


既に生理があった子はなんだか自慢気で、周りを

「子供だ」

とみくだしているように見えた。


「ヒナ、まだなんだってね。私、来たんだあ」
友達が嬉しそうに言ってくるのが辛かった。


中学になると、生理がある前提で会話が進むようになってきていた。


保健の授業の時も先生の第一声が

「みなさんのなかのほとんどがもう来ていると思いますが…」

だった。


早く来ないかな、
毎晩のように思っているのにまだ来ない。

それからまるでお守りのように使いもしない生理用品を薬局で買ったのだが、

今はもうそれも埃をかぶっている。


「このなかにもしまだ月経がなくて、中学三年生になってもこなかったら、婦人科を受診してくださいね」



保健の先生の言葉が頭によぎる。

ひょっとして自分は不妊症なのではないかと不安になった。


しかし生理は一向にこない。



…今日に至るまで…。
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