策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「言葉をもたない相手の要望を理解することができる」
「言葉をもたない相手?」
 赤ちゃんくらいしか思い浮かばない、誰?

「動物の気持ちがわかる。患畜の恐れや好奇心、意識を含む、すべてを知ることができる」
「動物の気持ちが、すべてですって?」

「信じられないだろう? 頭が賢い宝城に白状したら、馬鹿だと思われる」

「ちょっと待ってください、私なら」

「少し抜けているから、いつものように信じるだろうと思った」

「もしかしたら卯波先生って、院長みたいに口が悪いのかも」
 口を尖らせて見上げる。

 真顔だ。冗談を言うタイプじゃないのは、わかっているけれど、自覚なしのけっこうな毒舌なんだ。

「理解を示してくれる人に打ち明けたかった。それは親友でも親でもなく、人生のパートナーと決めていた。桃だけに理解してもらえれば、それだけでいい」

「打ち明けてくださって、ありがとうございます」
 とっても嬉しい。

 親友の院長にさえ告げていない、重大なことを話してくれるなんて、私にとって光栄なこと。

「秘密だ、二人だけの。生まれてくる俺と桃の子どもたちにも内緒だ、誓え」

「気が早いですよ」
「誓うか?」
「まだまだ先ですよ」

「誓うと言うか?」
「はい、誓います」
 生まれてくる子どもたちって、卯波先生ったら、どれほど気が早いの? 

 しかし、この世には動物の気持ちがわかるだなんて、凄い体質もあるんだね。

 人の体質って計り知れない。科学的でもなければ心理学的でもない体質か。

「犬や猫は、気持ちがわかりやすいですよね。でも、エキゾチックアニマルは」

 わかりづらいと言うか、私にはわからない。
 かろうじて、リスザルのモアには表情があるし、鳴くから、なんとなくわかるかな。
 あっ、だからあ!

「だから、モアやインコの診察は、いつも卯波先生なんですね」

「いつからか宝城は、俺にエキゾチックアニマル全般の診察を回してくるようになった」

「もしかしたら、薄々、感づいてるんじゃないですか? 大親友ですよ?」

「さあ、どうだろうか。エンパスは、まだまだ世間一般に浸透していない」

 男同士の親友って、卯波先生は恥ずかしいのかな。照れくさそうに髪の毛を撫で上げた。

「モアやインコの気持ちも、わかってたんですか?」
「わかる」

「レクの気持ちも、わかってたんですか?」
 そっと消え入る声で聞いてみる。

「ああ、最期まで」
「すみません、残酷なことを聞いてしまって」

 この話は、ここで終わらせないと疲れさせてしまう、もうやめよう。
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