策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「体力をつけて免疫力を上げるために、強制給餌をしてあげていいですか?」

「ありがとう、栄養価の高い缶詰を少しずつあげてみてくれ」
 一刻を争う状況に、すぐに強制給餌の用意をしてフキのもとへ急ぐ。

 ケージ内のうつろで生気のない目は、ただ開いているだけ。

 フキ、がんばろうね。シリンジに餌を吸わせて、口内に少しずつ流し込む。

「フキ、偉いね、飲み込んだね、いい子」

 青マークにチェックを入れ、食べた量を入力して、卯波先生に強制給餌の結果を報告する。

「緊急措置のアシストありがとう。あれだけできれば、俺も助かる。フキのために強制給餌も気づいてくれて、ありがとう」

 さっきの生きられるかって質問を猛省して、がんばって挽回できたかな。
 卯波先生から、ありがとうと言われたのが嬉しかった。

「消毒は十分したか」
「はい」
「フキの血検結果が表示された」
 私も入院管理のスクリーンに目を移した。

「やっぱり白血球が測定不能だ。お腹が下っていないかチェックしてから行く。先に入院室に行ってて」

 入院室に行って、いつも通りに患畜の世話をしていたら、院長と卯波先生が来て処置に取りかかる。

「あれからフキの容体は?」
 外来にかかかりきりだった院長の強い視線が、卯波先生の瞳を捉える。

「今のところ、お腹は安定している。発症して一日から二日以内の治療なら、助かる確率が高い」

 フキ大丈夫そうで、よかった。

「フキは発症して二日、希望がもてるぞ」
 強気の院長の口角が、自信ありげに微かに上がる。

「フキの体力があればいける」
 体力次第。この小さな体に、命のすべてがかかっているんだ。
 
 患畜の世話が終わり、サニーの散歩に出かけて帰って来たら、卯波先生が「おかえり」って。

 つっけんどんな口調とは対照的に、表情は安心したって顔。
 もういい加減、迷子にならないって。

「その肘はどうした?」
 卯波先生の安堵の表情が真顔に変わった。そんなに心配するほどの怪我じゃないったら。

「散歩中、すれ違いざまにぶつかられて、転んじゃいました。相手の人は急いでたみたいです。サニーに怪我はありません」

 私の言葉を聞きながら、すでに肘の手当てを始めてくれる。

綿球(めんきゅう)を当てるぞ、沁みるが我慢しろ」

 消毒液を吸い込んだ綿球を当てられた瞬間、息が止まる痛みが全身を駆け回る。

「痛い、痛い、痛いよ、ふうふうして」

 顔が歪んで、痛みで体が強張(こわば)る。

 私の言葉通り、肘に涼しい風が当たり、痛みが治まってきた。

「甘ったれ」
「嬉しいくせに」
 そんな私の言葉なんかに薄い反応で、淡々と処置を進めている。

「ぶつかってきたのは男性か?」
「女性です」
「よほど体格がいい女性のようだ、勢いよく当たられただろう」

 肘の怪我をまじまじと観察しながら呟く。

「いいえ」
 私の言葉に卯波先生が、顔を上げた。
「どうかしましたか?」
「や、別になんでもない」
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