策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 ***

 翌朝。いつも私が一番乗りで到着するのに、隔離室に電気がついている。

 まさか徹夜?

 そっと覗きに行くと、卯波先生が診察台に横顔を押し当てて突っ伏している。

 もしかして眠っている?

 スクラブから長くすらりと伸びきった右腕は、診察台の前方で垂れ下がり、左腕を枕にしている。

 隣まで行って、じっくりと観察。

「目鼻立ちがはっきり。日本人離れしてて、きれいな横顔。睫毛は長くて濃くて羨ましいくらい」

 昨夜は、ずっとフキにつきっきりだったんだ。

 無防備な寝顔からは、すやすや寝息が聞こえてくる。
 爽やかな艶々した茶色の髪を、無意識に撫でた。

「柔らかな髪。前髪が、さらさら頬に触ってくすぐったいでしょ」

 そっと前髪を耳のほうに流したら、眉間にしわを寄せて、唇がもぞもぞと動いた。
 起きちゃったかな。

 驚いて思わず手を引っ込めると、睫毛が揺れて片目がそっと開いた。

 眩しそうに目をこすりながら、上体をゆっくり起こして、辺りを見回している。

「寝ちゃったのか」
 大きく体を伸ばして、凝り固まった背中や首を気持ちよさそうに鳴らした。

「おはようございます。お水を飲んでください、熱中症になっちゃいます」
「ありがとう」
 ペットボトルの水を喉を鳴らしながら、おいしそうに飲み干している。

「おはよう。前髪に触れられたりしたら、朝から刺激される」

 大きな手が、私の手首をしっかりと握ってくるから、身動きが取れない。

 心臓よ、どっくんどっくん鳴り響かないで鎮まりなさいったら。

  気を抜いた直後だから、よけい心臓が飛び跳ねるほど驚いた。

「今朝は、なんてラッキーなんだ。朝起きて、最初に見たいのが最愛の恋人だから」

 切ない顔で私を仰ぎ見てきてから、ねだるように微かに唇を舐める。

「モニターで、院長と坂さんに見られちゃいます」
「こんな朝早く来ていない、二人きりだ」

  触れるか触れないかで唇を重ねてきた。

「恥じる顔としぐさが、たまらない」

 体が燃えそうな熱視線を放ってくるから、緊張した鼻も喉も呼吸を止められたみたいになって、目は卯波先生に釘付け。

「さてと着替えるか」
 甘い言葉と切ない表情が、ころりと真顔に変わった。

 もう! 私をからかったんだ。きついジョーク、卯波先生らしくない。

  卯波先生がスクラブを脱ぎながら、洗濯機のほうに歩き出した。

 まくり上げるスクラブの裾から、浮き出る背筋や腕の筋肉を見せつけられているみたい。

 ただでさえ天使の日のことは、五分前のできごとみたいに鮮明に覚えているのに、押さえていないと心臓が飛び出しそう。

「あ、そうだ忘れ物」
 私の手首を掴むと、そのまま洗濯機のほうまで連れて行かれた。

「ここなら死角だ」
 壁に背をつけられた私は、寝起きの潤んだ瞳を仰ぎ見る。
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