策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 私の顔の両側には、卯波先生が壁に肘まで突く腕があって、至近距離で囲まれて身動きが取れない。

「からかってもいない、ジョークでもない」

 心を読まれた。

 片側の口角を一瞬上げた涼しげな顔をまともには見られず、視線をそらした。

 いつもより、とっても恥ずかしい心の声を聞かれてしまったんだもん。

 卯波先生の筋肉からは、おびただしい熱量が放出されて、全身に感じる熱気でのぼせそう。

「瞳をそらすな、俺を見ろ」

 胸の鼓動は背中から押されるように、どっくんどっくん。
 ダメ、これじゃあ胸から前方に心臓が飛び出る。

 卯波先生が、私の顎先をそっと上げてスローな優しいキスを降り注いでくる。

 内からわき上がっていた恥ずかしさが、リラックスした優しい卯波先生のリードで消えた。

 ずっと卯波先生を見つめていたい。

 惜しむように熱い眼差しを向けると、とろけそうな瞳が、私の視線も心も捉えて離さない。

 満面の笑みで仰ぎ見ると、愛しさが堰を切って溢れ出したような笑みに照らされた。

「人生で最大の喜びのひとつは、桃を笑顔にすることだ。桃が、いつでも笑顔でいられるように努力する」

 抱き締める厚い胸板も逞しい腹筋も、私を包み込む。

「卯波先生の腕の中が恋しかった」

 熱く燃え上がる卯波先生の想いが、私の体のあちこちに熱く脈打ち触れてくる。

「今ここでは、少ししか手をつなげないし、抱き締めてもらえない。でも、私の心は卯波先生にしっかりと掴まれてる。だから嬉しいの」

「相変わらず可愛いことを言う、甘い口だ」

 吐息交りの切なくかすれた声が、私の胸を締めつける。

「離れがたい」
 顔を上げる卯波先生の揺れる瞳が、私の両目をゆっくりと交互に見つめる。

 ひとときの悦びを噛み締めるように、卯波先生が静かに体を離して、私の体に絡められた腕はゆるやかに滑り落ちた。

 つないだ卯波先生の指先からは募る想いが溢れ、後ろ髪を引かれながら剥がれるように私の指先から離れていく。

 最後まで触れ合う互いの中指が、一途な想いを胸に刻むように、ゆっくりと離れた。

「桃の家は、俺の腕の中。また、いつでも帰っておいで」
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