策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 もう絡み合う視線を外すことができない。

「御両人さんよ、そうやっていつまでも見つめ合ってないで話せよ」
「言葉じゃない、俺たちは瞳で会話をしている」

「坂さん、これ真面目に言ってるんだよ。こういう首すじがかゆくなること言う奴なの。凄いでしょ、卯波って」

「私、今まで男性から、こんなこと言われたことないです。ここだけ二人の世界ですね」

「オペ入る前に食べちゃおう。今日は呼吸器に持病がある子だから」

 なにもなかったかのように、坂さんに話しかける院長。 
 そのまま、坂さんと話しながら歩いて行っちゃった。

 そうだね、時間があるときに食べておかないと、夕食の時間まで食べ損ねちゃうもんね。

 卯波先生と私は、いっしょにオペ室に移動。

 効率的にオペを進めるために、先に卯波先生が患畜に麻酔をかけて見守っておく。

 そうすれば、食後の院長がすぐにオペに入れる。無駄なく効率的な時間の使い方だね。

「桃、あとは俺が見守るから、昼食に行って来い」
「お願いします」
 その足で休憩室に向かい、お弁当を食べて束の間の休憩。

 毎日毎日、覚えることがたくさんあるから、頭はこんがらがっちゃうし、体は誰かに背中を押されるみたいに動き回るからへとへと。

 それでもつづけられるのは、院長と坂さんがいてくれて、それ以上に卯波先生がいてくれるから。

 三人からたくさん愛情を注がれて、ときには厳しい指導も入るけれど、動物看護師として成長するためのフォローをしていただけて、私は幸せ者。

 つらいことがあっても、なによりも三人が私を愛してくれているからがんばれる。

 三人の笑顔と微笑みに囲まれている幸せな毎日に、私の笑顔は日々順調に更新されていっているの。

 院長と坂さんはオペに入ったね。休憩室から出た私は、スタッフステーションに向かっていた。

 廊下を歩いていたら音が反響しているのかな。たぶん、あれは話し声。

 外の通行人の声かなあ、なんて歩いて来たら、通用口の外からの声だった。

 ふすまでも開けるように静かに近づいて、耳を澄ませたら、声の主は卯波先生。

 一方的な喋りは語尾まではっきりと聞こえてくるから、どうやらだれかと携帯で話している様子。

 どうしよう聞いてしまおうか迷う。そうは言いながら、もう聞く気で動けない。

 どうしてかって、いつもの冷静沈着な卯波先生の淡々とした口調や声と違うから。

 喉の奥から搾り出す低い声で、一つひとつ区切るようにはっきりと話す声は、吐き出すように意識的に、語尾に力を入れているみたい。

 なにかを必死に止めている?
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