策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「あとは俺がやるから、早くあがれ」
 それだけ告げると、卯波先生が入院室に行ってしまった。

 初めて卯波先生の口から出た女性の名前が気になり、内心穏やかではいられなくて、そわそわする。

 どこの誰なの。気になり、すぐに院長に質問した。

「美砂妃さんって、どなたですか?」
 女の人の名前に心が落ち着きをなくし、胸騒ぎを覚える。

「彼女は、卯波家では親戚の子みたいなもんだよ」
 親しいお付き合いなのかな。

 院長は、私の不安げな表情を察してか、笑い飛ばした。
 でも気になるの。

「まずかったら、俺が緒花に美砂妃ちゃんの話なんかするかよ」

「だから、卯波先生も私に聞かせたんですか?」
「そう。そんなしょぼい顔すんなよな」

 馬鹿じゃないのって、今にも膝を叩いて院長が笑いそう。
 それくらい、気にするなって顔。

「それもそうですよね」
 言われてみればそうだよね、話せる関係なんだ。
 そう無理矢理にでも、自分に言い聞かせるしかない。
 深く考えると苦しくなるんだもん。

「緒花は卯波の彼女なんだから、自信を持てって」

 包容力のある優しい笑顔に、微笑み返したけれど、少し口もとが引きつるのが自分でもわかった。

 ですよねえ、なんて院長に同調できないよ。

 私よりも、ずっと長く深く卯波先生のことを、知っているであろう美砂妃さんのことが、どうしても気になる。

「おいくつですか?」
「俺たちより五歳下だから、二十三」
 私よりも三つ上か、どんな人なんだろう。

「おい」
 言葉が耳に入らないほど、考え込んでいたみたい。
 院長の呼びかけで、現実に引き戻された。

「顔を上げろ、心配するな。卯波は美砂妃ちゃんを妹みたいに可愛がってる」
 本当に妹みたいな存在なの?

「取り越し苦労だよ。いつもケロッとしてるのに、珍しく気にかけるんだな」

 院長が物珍しそうに、私の左右の瞳を交互に見つめて微笑む。

「美砂妃さんは、海外で暮らしていらっしゃるんですか?」
「留学」
「海外に留学するって、なにか目標があるんでしょうね」

「いずれは、お祖父さんの会社に就職して、海外支社に着任するんだろ」

「海外支社があるんですか?」
 お祖父さんの会社、そこそこ大手なのかな。

「彼女は総合商社の雄、守沢(もりさわ)商事の孫娘だ」
 そこそこどころじゃなかったわ、びっくり。

 日本中の誰もが知っている、日本の四大総合商社の一角、守沢一族の御令嬢じゃないの。
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