策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 掃除が終わって、出勤してきた坂さんとも、ふつうに話せたし、しっかりと仕事モードに切り替わったよね。
 私は大丈夫。

 床を踏み締めるように歩を進め、颯爽と入院室に入った。

「サニー、ぎゅってさせて」

 のんびり屋でクールで穏やかなサニーは、私が抱き締めても、されるがままでいてくれる。
 温かくて、お日さまのいい匂い。

 抱き締める胸の中に感じるサニーの心音は、私の心を落ち着かせてくれる。

 生きているっていいね、こうして支えてくれてありがとう。

「サニーに感謝しろよ。サニーに触れてると、脳と心が癒されて、ストレスが緩和されるぞ」

「少しだけ、不安や哀しみが減った気がします」

「触れ合うことで、お互いに愛情ホルモンのオキシトシンが分泌されるから、幸せな気分になれるんだよ」

 そういうことね。だから動物を撫でると、気持ちが和らいだり笑顔になるんだ。

 サニー、幸せをくれてありがとう。少しだけ哀しみが減ったみたい。

「保定します」
「あっ、いい、立たなくていい。もう少し、そうしてサニーに抱きついてろ」
「ありがとうございます」

 サニーが規則正しく振る尻尾が、鼓動のリズムに似ていて、心が安定する。
 やっぱり動物っていいな。

「サニー、ありがとう、今日もがんばるね」

 立ち上がった私を仰ぎ見るサニーが、笑って見守ってくれる。

「尻尾も振って応援してくれてるの?」

 サニーから離れるのは惜しいけれど、ケージの中の犬たちは、私の挙動ひとつで一喜一憂して、いっせいに甘えて鼻を鳴らす。

 私のことは、ごはんをくれる人って認識しているから、それはそれは大騒ぎでアピールをしてくる。

「まだ保定はいいから。いつも通り、先にケージの掃除と給餌してあげて」
「はい」

「あずかりのミニピン、神経質で食べてないから、ささみと缶詰めにしてあげてみて」
「はい」

 この子、ただでさえ食が細いのに、あずかりはストレスかな。
 ケージ越しに撫でると短い尻尾を振るから可愛い。温かい体に癒される。

 そのあとは、入院室の中でも隔離されている特別なケージの世話をしに向かった。

 ケージのあちこちから、水が詰まったみたいな音が、ぷうすう聞こえる。

 その音は、くしゃみと鼻水鼻づまりで、鼻息が荒い猫たちが、つらそうに鼻を鳴らしている音。

 冬は猫の風邪が、ぐんと増えて入院室も外来も猫だらけになる。

「がんばって早く元気になろうね」
 ケージを回りながら、声がけして掃除と給餌を済ませた。
 
「給餌、終わりました」
「そしたら、サバトラのミーシャ連れて来て」

 チンチラシルバーが入っているから、目張りが入って鼻筋の通った美人さんのミーシャを抱いて、診察台に連れて来た。

「ミーシャ、食べたよな?」

 もう今では、チェックすることも体が覚えて、すべてのデータをチェックしているから、院長もスクリーンに視線を馳せないで信頼してくれる。
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