策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「冗談よせよ。卯波の姿を目を表情を見ただろ? あれが愛ある二人に見えたか?」

 満場一致で、明らかに喜んでいないと言いたげな呆れた顔。

「ふだんは能面みたいな卯波だけど、あいつだって嬉しければ幸せな顔して笑うよ」
 
 それって褒めているよね?

 私だって、卯波先生が幸せだって顔で笑うのを見てますよ。

「資産家のご長男と日本四大総合商社の一角のお嬢さま。ぴったりな組み合わせですよ」

「卯波は、結婚する理由が誤った目的のためだってことを知ってるよ」

「それでも結婚しちゃうんですよね。かえって人のものになってくれたほうが、諦めがつくのかな」

 凍てつく冬の空を見上げて、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 大空よ、どうか笑って。ちっぽけな悩みだなって。
 
「そんな簡単に諦められるのかよ」
「諦めなくちゃです。家柄も違いすぎて、私には最初から敷居が高かったんですよ」

「緒花の性格なら、家柄の壁なんか乗り越えられるよ。おじさんもおばさんも庶民的だし」

「慰めは、いらないですったら」
「俺は下手な慰めは言わないよ。それは緒花が一番よく知ってるだろ?」
 俺のなにを見てきたくらい言いそうな、コートの袖を腕まくりしそうな勢い。

「たとえがなんだが」
 ひと呼吸おいて、院長が話し始めた。

「犬や猫だってペットショップからの子もブリーダーさんからの子も、友人や知人から譲り受けた子も捨てられてて拾った子も、どの子もみんな愛しくて可愛いよな」

「もちろんですよ」
「いちいち出自を比べたことなんてないだろ?」
「そんな比べるなんて、あり得ないです! みんな可愛いです」

「だろ? 良家の方々ほど、そこまで家柄にはこだわらないよ。だから緒花のは取り越し苦労」

「院長」
「なんだよ、改まって」
 真顔で仰ぎ見る私を、探るような目でじろじろ見てくる。

「私が卯波先生のお宅におじゃますることも、卯波先生のご両親にお会いすることもないですよ」
 夢物語に思わず空っぽの笑いが漏れる。

 あんな現実を突きつけられたら、寂しくて哀しくなる。

「だったら、これだけは約束しろよ」
「なんですか?」

「卯波を好きな気持ちは、最後までもってろよ。悔いなく好きを貫き通せよ」
 大空を仰ぎながら、耳を傾ける。

「それから諦めたって遅くない。って、おい聞いてるのかよ」
「好きを貫き通せです」

「なんだ、ちゃんと聞いてるのか。無理に忘れるようとすんな、わかった?」
 院長の言葉に返事のしるしに頷いた。

「返事は?」
「はい、約束します」

「よし。でさ、よそ見をするなよ。前を向け、前を。ったく、危ねえな」
 人差し指と親指で、肩先をつままれて引き寄せられた。
< 149 / 221 >

この作品をシェア

pagetop