策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 ***

 無事にオペも終了して、大忙しのうちに閉院した帰り道。

 当時のまま、数分歩いた頃合いを見計らって、さりげなく卯波先生が手をつないでくれた。

 手から全身に、びりびり電気が走り回る衝撃に襲われ、脳から痺れた。
 まるで恋の雷が落ちたみたい。

 恋しくて恋しくてたまらなかった卯波先生と、また今こうして、おなじ道を歩いていることが、震えるほど嬉しくて喜びがこみ上げてくる。

 どきどきする、この胸の高鳴りは、もう抑えられない。

「相変わらず、茶トラのブービーを抱き締めているのか?」
「覚えていたんですか? もちろんです、卯波先生のハンカチも」
 
 前を向いたまま、澄まして歩いている卯波先生の顔を仰ぎ見る。

 卯波先生の香りは、ほとんど消えちゃったけれど。 
 また、すりすりさせてもらおう。

「変態」
「私、変態ですか?!」

「また、ガード下のような宝城のような、けたたましい声をあげて」
 片側の頬を歪ませているけれど、瞳は懐かしそうに笑っている。

「懐かしいな、あれから二年が経った」
 卯波先生が懐かしさを想い馳せるように、視線を遠くに向けて歩いている。

 安らいでいるときの優しい目も変わっていない、いつも私を安心させることも。

 久しぶりにラゴムからいっしょに帰ることが嬉しくて、心が弾んで体が地面から浮いているんじゃない?

 幸せすぎて全身が浮かび上がっているって、本気で思う。

「あれから二年って、初めてのキスからですか?」

 はにかみながら俯いたとたん、みるみるうちに、顔が燃えるように火照ってくるのを感じた。
 よく私、がんばって言った。

「それもある、恥ずかしいか? レンガみたいに真っ赤な顔をして」

「それクッキーのときにも言われました」
「サニーと迷子になったときか、よく覚えているな」
 二年前って、あとは。

 アスファルトの溝でも数えているのかと思うくらい、俯きながら歩いて考え込む。なんだっけ。

 考え始めたと思ったら、すぐに卯波先生が声をかけてきた。

「スイカズラだ」
「ああ! スイカズラ、初めてのデート」

 すっきりして満面の笑みを浮かべて、卯波先生の横顔を仰ぎ見る。

「いつまでも俯いて考え込んでいるから、すぐにでも顔を上げさせようと思った」

 前より素直に愛情表現をするようになった、そんなに私の顔が見たいんだね。

「下を向いて、よそ見をしていたら危ないだろう」
 やっぱり変わっていなかった、素直じゃないんだから。

 私に逢いたかったでしょ、恋しかったでしょ。
 私は、とっても卯波先生が恋しかったよ。

「だろうな」
 また私の心を読んで、片側の口角を上げて自信たっぷり。

 太陽が一日の役目を終えようと、ビルの谷間にゆったりと落ちていくころ。

「明日、見に行くか?」
 ぽつりと呟く穏やかな声に、もしやと心が弾み始める。
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