策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「おはよう」
 いつもみたいに、陽気に入院室に入って来た。

 院長ったら、どうして大事なことを黙っていたのか問い詰めてやる。

「おはようございます」
「どうした、目はニヒル、口はアヒルみたいに尖らがせて」
 
 なんなの、いたずらが成功した子供みたい。嬉しそうに笑っちゃって。

「その顔は、ご自分がしたことをわかっていらっしゃいますよね?」
 自白を促す刑事気取りで問い詰める。

「よかっただろ、元の鞘に収まって」
「そうですけど、あらかじめ話してくだされば」
 喋る途中から、もう口をはさまれた。

「それだと、つまんないじゃん」
「院長が」
「そうだよ、よく俺のことわかってんじゃん」

 一頭ずつ、ケージを見て回る院長の脇を通りながら、空の食器を回収する。

「どうだ、ドラマティックな再会に感激しただろ」
「私の心臓止める気ですか!」

「カリカリすんなよ、ベーコンかよ。だんだん卯波に似てきたな」
 にこにこしていた院長が、ふと真顔になった。

「顔色も表情も元通りだっただろ。一時は、どうなることかと気に病んだ」

 美砂妃さんといた卯波先生を、街で偶然に見かけたときは、まるで別人みたいだった。

 私は院長と花を見に行った帰り、あのとき一度きりだった。
 
 でも院長は、もっと卯波先生に会いに行っていたもんね。

「あのころは院長にも、たくさんお世話になりました」
「緒花も、げっそりそげてガリガリだったもんな」

「情緒も不安定だったのかな、院長のへなちょこ恋愛講座を、そのまま試してましたもん」

「おい、このヤロ、いろいろ失礼なこと言ってんのわかってるよな」

「なんだかんだ、成功したんですから大したもんですよ」

「偉っそうに」
「スペイン語みたいですよね、エラッソーニ」
「着眼点が独特だよな。卯波には、そこが新鮮だったんだろうけど」

 馬鹿か利口かを見定めるように、まじまじと見てくる。
 結局、にやにや楽しそうに笑うじゃないの。

 しばらくして、ケージ内の掃除を始めるころには、院長は患畜の処置を始めた。

「すぐに、卯波のプレーゴに行かせてやれなくてごめんな」

「いいえ、とんでもない。アニマーリアからスタッフが派遣されているって、卯波先生からも、お聞きしましたし」

 アニマーリア動物高度医療センターなら、スタッフも多数だから、分院のプレーゴも回せるでしょう。

 アニマーリアのアニテク(動物看護師)も、ふだんの大病院とは違う、小規模の病院で働くことは勉強にもなる。

「卯波先生は、ご長男なのに、どうしてアニマーリアの院長にならないのですか?」

 なんとなく、聞きやすい院長に質問してみた。
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