策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「誤解されるから」
 納得できない様子で聞いてくるのは、感覚が違うからなのか。

 全員揃ってお昼ご飯を食べたあと、卯波先生から電話がきた。

<なにかあったか?>

<お疲れ様です、急にどうしたんですか? 今ちょうどお昼ごはんを>

<そんなことはどうでもいい、早く質問に答えろ>
 聞き上手の卯波先生が珍しく、私の言葉をさえぎった。

<桃の嫌悪感が伝わったし、疲労困憊気味なのも感じる>
 戸和先生のハグやらなんやらに対する私の感情を、卯波先生が早速感じ取っちゃったんだ。

<正直に話すんだ>
 疲れたことを話した。

<すぐにでも飛んで行きたいのに、学会やセミナーや勉強会のことで、かまってあげられなくてごめん>

<抱き締めてもらえたら元気をもらえるのに>
<休みをいっしょにいられるように考えるから>
<いつも、私のことを一番に考えてくれてありがとうございます。私は大丈夫、がんばれます>

<逢えなくてどれくらい経った。本当は寂しいんだろう、我慢させてごめん>

<次のデートでは、うんと甘えてずっと離れません。卯波先生が嫌がっても、ずっとくっついてます>

<かまわない、俺の腕の中が桃の家>
<早く帰りたい、毎日ブービーを抱いてますが、卯波先生じゃなくちゃダメです>

「hi! 桃、ここにいたの。置いて行かないで」

<今のは?>
 静かな声でゆっくりと聞かれたから、背筋が凍る感覚に襲われる。

<誰なんだ?>
 こめかみがひくついていそうなピリピリした声にドキドキしながら、戸和先生の情報を話した。

<やっと後任が来たのか、厄介な獣医師のようだな>
 そう、私を疲れさせる人。

<で、なぜ彼は桃のことを呼び捨てなんだ?>
 答えようとしても答えが見つからない。
<どうしてでしょう、最初からです>

<緖花さんと呼ばせろ、緖花さんと。呼ばせないなら、俺が呼ばせに行く>

 焼きもち妬きの導火線に、火がついた瞬間を感じた気がする。

 そういえば昔、院長が言っていたっけ。『卯波の独占欲と嫉妬は、一度火がついたら大変だぞ、相当覚悟しておけよ』ってね。
 思わず頬が緩む。 

<なにを悠長なことを>
 わ、また心を読まれた。

<文化か習慣か知らないが、人の彼女を抱き締めるなんて大問題だ、放置できるか>

<それ話してませんよ>
<桃の心を感じる。やられて嫌だっただろう>
 驚いたし、嫌だった。

<次にやられたら、おもいきり脛を蹴り上げろ>
 それは、ちょっと。 
<四の五の言わずに足を出せ、わかったか>
<はい>
<加減なんかするな>

 焼きもち妬かれるのって嫌いじゃない。
<焼きもちなんか妬いていない>

<じゃあ、この卯波先生の現象をなんていうんです?>
<笑うな>

「桃、まだ? もう行こうよ」
<おい! 今すぐ、そいつを黙らせろ!>

 耳の奥までどころか脳まで揺れそうな声。
 卯波先生が怒った。
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