策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「気をつけます」

「愛玩動物も大切、おなじ命。でも愛玩動物は、まだいい。直結してるのは家族だけだから」
 検査の手を緩めず、いろいろなことを教えてくれる。

「産業動物獣医師は、畜産農家との人間関係が大切。患畜の症状を詳しく正しく教えてもらわないと、病気は消費者の食に直結してるから」

 戸和先生の話を聞いていると、供血犬と家畜はおなじに思う。
 おなじ動物でもペットとは別次元。

「病気にさせたら、消費者の食に影響を与えてしまう」
 それは危険なことだと強調する。

「だから、たくさんたくさん話してもらうよ」
 まだまだ、私には見えない世界がありすぎる。日々勉強とは、このことだ。

「愛玩動物の場合はオーナーを悲しませたくないね、泣くの見るのつらいよ」
 少しカタコトまじりで、切々と話す戸和先生、優しいね。

 検査が進むにつれ、積極的に治療をしようとする熱心な戸和先生の姿勢が見えてきた。

「嘔吐の疾患はたくさんあるね。いっぱいの中から早く疾患を特定して、苦しむ子たちの治療をすぐに開始して、心身を楽にしてあげたい」

 手に取るようにわかる。どの獣医療スタッフも、おなじ気持ちで患畜に向き合っているから。

 その後は、検査と結果待ちで待たせてしまったけれど、思ったように子宮蓄膿症だった。
 ルルは、とうぶん通院決定。

「戸和先生、やりますね」
「Who knows most, speaks least.」
 ん?
「能ある鷹は爪を隠すとおなじ」
「またずいぶんと謙虚ですね」
「海外で謙虚がいきすぎるとよくない。僕の半分日本人」

「ここは日本、戸和先生の診察かっこよかったですよ」
「僕に惚れたか」
「まさか。そこもっと謙虚に」

 どうせ、なにを言わずともついてくるから、次の診察に向おう。

「戸和先生、診察室に入ってカルテ見ましょう」
「いっしょに見たいのか、体こうして」
 スマートに体をすっと寄せてくる。

「そういうことするの、やめてください!」
 ちょっと気を許すとこれなんだから。

「どうして?」
「誤解されたくないんです!」
 これも、また卯波先生が感じ取ってピリピリカリカリするから、精神衛生上よくない。

 嫌だなんて、心で強く想ったりしたら、一瞬で卯波先生が駆けつけて来そう。
 文化なの、そう、これは文化。自分に、そう言い聞かせる。

 次の診察は待合室から話し声が聞こえてくる。
 オーナーかな?
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